コラム

「自爆テロ型犯罪」を防ぐため、原因追究以外にすべきこと

2022年07月06日(水)21時00分
群衆

(写真はイメージです) andreusK-iStock

<理不尽な事件が起きたとき、日本では犯人の異常な人格やそれを形成した境遇に原因を探すことが多いが、そのアプローチには限界がある。「逮捕されてもいい」と考える犯罪企図者の犯行を防ぐ効果的な対策はあるのか>

6年前の7月、相模原市の障害者施設で元職員が入所者19人を殺害した。その3年後の同じ7月、京都市の京都アニメーションのスタジオが放火され、社員36人が死亡した。いずれも、逮捕されてもいいと思って犯行に及ぶ「自爆テロ型犯罪」だった。

昨年10月のハロウィーンの夜には、悪のカリスマである「ジョーカー」に似せた服装をした男が京王線の乗客の胸をナイフで刺し、オイルに火を付けた。これも自爆テロ型犯罪である。

今年に入ってからも、1月の大学入学共通テストの朝、東京大学の会場で高校生が受験生と通行人を刺し、先月には、川越市のインターネットカフェで男がアルバイトの女性を人質にとって個室に立てこもった。これらも自爆テロ型犯罪である。先月の立てこもり事件の容疑者は現行犯逮捕された後、「自分の人生に嫌気が差した」「死刑になりたかった」と話したという。

犯罪原因の追究には限界がある

こうした自爆テロ型犯罪が起きると、決まってマスコミは「犯罪原因論」の視点から事件を報道する。「なぜ、こんな理不尽な事件が起きてしまったのか、その原因の解明が求められる」といった語調が定番だ。

しかし、犯人の異常な人格や劣悪な境遇に犯罪の原因があるとしても、それを特定することは困難であり、仮に特定できたとしても、その原因を取り除くことは一層困難である。そのため結局、「格差社会」や「心の闇」といった空疎な言葉で国民を煙に巻くことになる。カミュの小説『異邦人』が、こうした犯罪原因論の限界を的確に描いている。

それでも、原因の解明が可能だと言うなら、次のような思考実験をしてみてはどうか。

まず「格差社会」が犯罪原因だとする。では、格差社会の原因は何か。「貧困」が格差社会の原因か。では、貧困の原因は何か。「産業構造の硬直性」が貧困の原因か。では、産業構造の硬直性の原因は何か。「ITスキルの欠如」が産業構造の硬直性の原因か。では、ITスキルの欠如の原因は何か。「デジタル教育の低迷」がITスキルの欠如の原因か。では、デジタル教育の低迷の原因は何か。「保守的なマインド」がデジタル教育の低迷の原因か。では、保守的なマインドの原因は何か。「同調圧力」が保守的なマインドの原因か。では、同調圧力の原因は何か。「タテ社会」が同調圧力の原因か。では、タテ社会の原因は何か。といった具合に、原因の追究はどこまでも続く。

原因追究が果てしなく続く間も、犯罪は待ってはくれない。そこで、社会のエネルギーを終わりのない原因論議ではなく、政策的にすぐにでも実装可能なものに投入しようという提案が登場した。「犯罪機会論」である。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:「高市ラリー」再開か、解散検討報道で思惑

ビジネス

トランプ米大統領、クレジットカード金利に10%の上

ビジネス

関税返還となった場合でも米財務省には十分な資金=ベ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米雇用統計予想下回る 円は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 8
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 10
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story