コラム

慰安婦問題に迫る映画『主戦場』 英エセックス大学の上映会でデザキ監督が語ったことは

2019年11月22日(金)18時00分

──過剰に感情的にしたくなかったのでしょうか。

「そうですね。慰安婦制度の否定論者は、慰安婦の証言動画が感情的で、作為的だとして批判します。そう言って、論破しようとします」

「逆に、日本で、ある学生が言ったのですが、なぜ最後にあのような映像を入れたのか、と。それまでは論理的に話が進んできたのに、なぜ最後にあのような感情を刺激するような動画を入れるのか、と。1分、いや30秒ぐらいの動画でさえ、そう言われるのです」

「一部の日本人は、こうした証言は全くの嘘だと言います。ですから、『感情』という部分をなるべく取って、扇情的にはならないようにしたかったのです。こういう映像は日本やアメリカでもよく使われますし、感情を刺激されるのですが、同時に、慰安婦たちが微笑んでいる動画も簡単に見つかるのです」

──日本の方は、この映画をどのように受け止めているのでしょうか。右派保守系の方でしょうか、それともリベラル左派系なのでしょうか(筆者の質問)。

「一般的に言うと、日本人は右派系の考えの側にいると思います。私の母もそうですし、あるリベラル系の(日本人の)先生がいるのですが、私が慰安婦についての映画を作っていると言うと、『ああ、あれはみんな嘘だよ』と言いました。ですので、私が知っている人に限ると、左派系の人でも、(慰安婦問題は)韓国による嘘だと思っているようです」

「映画を見た人は、ツイッターで判断すると、『衝撃だ』、『日本政府がこんなことをやっていたとは知らなかった』とか書いていますね。前向きの評価でした。50の劇場で公開されましたし、ドキュメンタリー映画としては大ヒットです」

「唯一、ネガティブな見方をしていたのは、極右の人々です。『こんな映画は見るんじゃない』、と言っています。この映画を人々が見ることを怖がっています。上智大学の生徒の一人がこう言いました。『(慰安婦問題について)左派系の人々の意見を聞いたのは初めてだ』と。それで考えが変わったそうです」

「若い人の大部分が慰安婦問題を知らないのです。このため、非常に大きな衝撃として受け止めるようです。理解するために2-3回見る人もいます。一般的に言うと、反応は前向きだったと思います」

──現在の日韓の政権で、問題は解決に向かうと思いますか?

「現政権ではその可能性はゼロだと思います。若い人の反応を見ると、どれほどひどいことが起きたかを理解して、謝罪へという動きが出そうなのですが、現在の政権では......。希望はありますが」

「日本の若い人が政治的にアクティブ(活動的)であれば別なのですが。実際にはそうではありません。韓国社会では、政治的にとても活動的です。でも、日本社会では歴史的な理由、過去のデモが粉砕されてきたことなどから、人々は政治的活動が実を結ぶということを想像できないのです。韓国では、民主化の動きがあって、成功例があります」

「日本では変化にとても時間がかかるのです」

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story