コラム

「世界陸上断念の女子陸上セメンヤ選手はただの女性、レイプのような検査をやめて出場させてほしい」

2019年08月29日(木)18時30分

インタビューは、DSDの定義から筆者の家族の一人が持つ「高次脳機能障害」及びDSDを持つ人と社会のかかわり方、セメンヤ問題を考えていくときの論点まで、幅広い内容となった。

なお、このインタビューは、もともとスポーツ専門サイト「Real Sports」掲載の筆者による記事のために行われたもので、関連記事は以下をご覧いただきたい。

LGBTとも第3の性とも違う「性分化疾患」の誤解 セメンヤが人為的に男性ホルモンを下げるのは正当?(7月24日付)

◇ ◇ ◇


認知度が低いDSD、「もう一つの性」ではない

――DSDについては、どれぐらいの認知度があるのでしょうか。

ヨ・ヘイルさん:実は正確には全く知られていない、と言って良いほどです。欧州圏では、まだダウン症候群のことを、「モンゴリアン(蒙古痴呆症)」と呼んでいる人も、高齢者の中にいると思います。ほぼそういうレベルではないかと認識しています。

――ある人の体の状態が従来の男女の体の定義から少し違っている、としましょう。この場合、私たちは、別の性別の存在として見てしまう傾向があるのではないでしょうか。「もう一つの性別」という考え方です。

(少しでも違えば)男女とは別のカテゴリーと思われてしまいます。女性から「お前は女性じゃない」「男でも女でもない」と言われることになったり、とか。これが実際の状況です。

(セメンヤ問題の議論では)「第3の性別を認めて欲しい」という言い方がされてしまうところがありますが、当事者の大多数は、全くそんな風には思っていないというのが事実です。自己認識は男性、あるいは女性なんです。

――そうでしたか。全く知らなかったことです。これまで、「第3の性別」、「トランスジェンダー」の枠組みで捉えていたので。

やはり社会的通念としては、どうしてもそうなってしまいますよね。

――「ネクスDSDジャパン」の「ネクス」はどのような意味になりますか?

ネクスは「ネクスト」(次)の意味もありますし、あとは「ネクサス」(繋がり、結びつきなど)の意味もあります。

DSDには様々な体の状態があって、実はそれぞれそれほどのつながりというのはありません。その意味で、「ネクサス(結節点)」として、つなげて、なんとかやっていけないかという意味を込めています。

親子間でも、どうしても正面だって話がしにくいことがあります。親御さんの側が罪悪感を持っている場合もあるし、性にまつわることなので話がしにくいのです。医療関係者と、実際の患者家族の人たちの中でも、なかなかコミュニケーションがうまく行ってなかったり。

社会と当事者家族の間でも、まったく話が通じ合わないところがあります。なんとかこれをつなげていきたい、という意味を込めました。

――いつ、このネットワークができたのでしょう。

約20年ほど前に、「インターセックス」という表現で男でも女でもない性別の人がいる、という話が、一度、日本で広まったことがありました。

現実にはどうなのかと、海外の患者家族会とか、いろいろな人権団体の人に会って(調べたのが)きっかけになりました。立ち上げは15年ほど前です。

――活動内容は、どうなっていますか。

DSDについての正確な情報・知識を出していくことがまずありました。

最近では、各DSD患者の体の状態に応じて患者家族会がいくつか出来上がってきているので、そちらの皆さんとの連携もしています。

海外では、約20年ほど前から患者家族会が整備されつつあって、今はかなり活動もしています。日本では、そういった形での患者家族会が出来上がったのは、約5年前ぐらいからでしょう。

――医療関係者の間での、DSDについての認知度はどれぐらいでしょうか。

正確な情報・知識を持っているのは、本当にDSDの専門医療の先生だけです。一般医療の先生方は、むしろ誤解されている方も多くて、実はそちらの方も大きな問題の1つとなっています。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

ニュース速報

ワールド

英総選挙、与党保守党が過半数確保の見込み=出口調査

ビジネス

ドル/円約2週間ぶり高値、米中通商合意への期待で=

ビジネス

米株は最高値更新、米中通商協議で原則合意と報道

ワールド

米、地上発射型弾道ミサイル実験を実施=国防総省

MAGAZINE

特集:進撃のYahoo!

2019-12・17号(12/10発売)

メディアから記事を集めて配信する「巨人」プラットフォーマーとニュースの未来

人気ランキング

  • 1

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 2

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボイコット呼び掛ける

  • 3

    中国で焚書令、文化大革命の再来か

  • 4

    白人夫婦の中華料理店、「クリーン」を売りにしたら…

  • 5

    自己主張を守るという名の放任子育てが増殖中! 子…

  • 6

    トランプ、WTOの紛争処理機能を止める 委員たったの…

  • 7

    これがフィンランドの新内閣 34歳サンナ・マリーン首…

  • 8

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 9

    自殺した人の脳に共通する特徴とは

  • 10

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 3

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」組の絶望

  • 4

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボ…

  • 5

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 6

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を…

  • 7

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 8

    『鬼滅の刃』のイスラム教「音声使用」が完全アウト…

  • 9

    サムスン電子で初の労組結成──韓国経済全体に影響す…

  • 10

    次期首相候補、石破支持が安倍首相を抜いて躍進 日…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

  • 4

    元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 7

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 8

    GSOMIA継続しても日韓早くも軋轢 韓国「日本謝罪」発…

  • 9

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 10

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
「STAR WARS」ポスタープレゼント
ニューズウィーク試写会ご招待
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!