コラム

ウィキリークス創設者アサンジは「真実の追求者」か「目立ちたがり屋」か

2019年04月15日(月)15時00分

16歳でコンピューター・ハッカーとなったアサンジは、1992年カナダの電話会社へのハッキングなどで有罪となったが、その後はプログラマー、データ暗号化、検索エンジンの開発にかかわり、2006年、ウィキリークスを創設。生情報を外に出すことを重視し、情報を検証の上、記事の形で公開する大手メディア、例えばイギリスのガーディアン編集部と気まずい関係になった。「生の情報の公開によって、人の命が傷つかないかどうか」を判断基準とする編集部と大きく対立する様子を、デービッド・リー記者がメガリーク事件をまとめた本『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』に書いている。

事実を集め、これを検証・分析して記事化するのがジャーナリストとすれば、「そのまま公的空間に出す」アサンジは、少なくとも従来の意味ではジャーナリストではなかった。

スウェーデン事件から籠城に

アサンジがエクアドル大使館に籠城する羽目になったのは、2010年8月、スウェーデン滞在中に発生した、女性二人に対する強姦疑惑がきっかけだ。本人は否定している。あくまでも疑惑であり、真相は分からない。疑惑が持ち上がったこと自体は、多くのアサンジ支持者にとっては問題ではなく、むしろ「大量の機密文書を公開したウィキリークス・アサンジに対する、米国側の思惑が背後にある」というウィキリークス側の説明にうなずいたものである。

しかし、この年の11月に国際刑事警察機構(ICPO)がアサンジを性犯罪容疑で国際手配し、12月、アサンジは英警察に逮捕された。のちに保釈されたが、2012月5月、英最高裁が、疑惑解明のためにスウェーデンにアサンジの身柄引き渡しをするべしという判断を下した。

アサンジ側はスウェーデンに引き渡しされれば、ゆくゆくは米国に送られてスパイ容疑をかけられる(最悪の場合は死刑もある)ことを懸念し、これに抵抗。2012年夏、ロンドンのエクアドル大使館に駆け込み、亡命を申請した。エクアドル側は「身柄引き渡しとなれば、人権が侵害される」という理由でアサンジを保護してきた。

スウェーデン検察側は、2017年5月、捜査の打ち切りを表明した。アサンジがエクアドル大使館にいたままでは、捜査のめどが立たないからだ。英政府は、アサンジが一歩でも大使館から外に出れば、「保釈条件の違反」という理由で逮捕する方針を明らかにしてきた。

アサンジ側が「スウェーデンから米国に送還されてしまうかもしれない」、「米国では公正な裁判にならない」などの理由で大使館での籠城を続ける一方で、先の大量の情報をウィキリークスに流したリーク者は裁判・投獄の人生を送っていた。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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