コラム

EU離脱か残留か 翻弄される英国民の今

2019年03月13日(水)17時24分

友人や知人も離脱を選んだのだろうか?「いろいろ、混じっていた。家族の間でも違うし。でも、離脱を選んだのは政治に関心が高い人だったような気がする。残留を選んだ人は、フランスに家を持っているとか、ユーロに投資したいとか、富裕な人が多かったと思う」。

なぜサイモンさんは離脱を選んだのだろう?しかも、プラカードに書かれていた文句は「さっさと離脱しろ」という意味で、「合意なし離脱」を表現しているようでもある。離脱強硬派といえよう。

「離脱に票を入れたのは、自分の国のことは自分で決めたかったからだ。国外の組織が自分の将来を決めることに耐えられなかったんだよ」。

話が一通り終わり、ほかのUKIPのプラカードを持った人に声をかけようとしたところ、ある家族連れが前を通った。男性が先頭で、子供たちと妻らしき人が後について歩いていた。この男性が、UKIPのプラカードを持った人に向かって、「ブレグジットか。私たちのようなドイツ人にとって、まったく、あなたたちのやることは、理解できないよ」と言い捨てた。

そんな言葉を言われた男性は、「そうかいそうかい、こっちだって、ドイツ人のやることはわからないな。離脱で、もう一緒にいなくてよくなる。アウフ・ヴィーダーセーエン(ドイツ語で「さよなら」)、だよ」と言い返した。

「これまでで、最高に面白い」

少し先に、青いマントや帽子を冠った、残留支持派の小さな拠点があった。「憎悪ではなく、ケーキ」と書かれた垂れ幕があり、その上に置かれた台には、EUをテーマにしたケーキがたくさん乗っていた。「あなたも、食べなさい」と誘われた。

誘ってくれた女性、ケイトさんに話を聞いてみた。

kobayashi20190313171407.jpg
「憎悪ではなく、ケーキ(を食べよう)」(撮影筆者)

kobayashi20190313171408.jpg
カップケーキがたくさん(撮影筆者)

kobayashi20190313171409.jpg
ケイトさん(筆者撮影)

「国民投票の時は、みんなあまり、離脱で何が起きるかということを深く考えずに、投票したような気がする」。ケイトさんはどちらに投票したかを言わなかったが、もしかして、離脱に投票し、今は残留を支持しているのかもしれなかった。

「1970年代には、EC(後のEU)に加盟し続けるかどうかの国民投票があった。自分はその時は投票しなかったけど、きっと、もし投票していたら、離脱を選んでいたんじゃないかな」。

しかし、3年前の国民投票が終わってから、「みんなが離脱でどんな悪いことがおきるのか、今はだんだんわかってきたと思う。だから、もう一度、国民に投票の機会を与えるべきだと思う」。

ケイトさん自身、「いろいろなことを学んだ」という。「EUは貧しい地域に資金を提供している。私が今住んでいる地域もそう。いろいろ、いいことをしている」。

その日の下院での採決はどうなると思う?国民投票の機会が増すだろうか?「分からない。誰もわかる人はない」とケイトさん。

「でも、60年生きてきて、今が一番、政治の動きが面白い。歴史的な瞬間にいる、と思っている」。

13日も、14日も、パーラメント広場付近には離脱派、残留派の支持者がたくさん集まりそうだ。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story