コラム

EU離脱か残留か 翻弄される英国民の今

2019年03月13日(水)17時24分

野党労働党のジェレミー・コービン氏は左派中の左派。労働党内では残留派の声が大きいが、コービン氏は本当は離脱派なのだろうか?

セバスチャンさんは「うーん・・・。人の心の中は分からないし、何とも言えないな」。

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大きな垂れ幕を二人で持つ(撮影筆者)

「勇気を持て。やらなくてもいいんだ」という大きな垂れ幕の片方を持っている、若い女性がいた。離脱には反対だという。なぜ反対なのだろうか?「離脱でいいことはないから。悪いことばかり」。この日の採決で、離脱が遠のいたら、加盟維持派にとっては良いことになるのだろうか?「そうなるのかどうかは、よくわからない。政治家のやることは、めちゃくちゃだと思う」。

「将来のために、よく考えてくれ」

少し先を歩くと、離脱派のグループの中で、熱い議論をしている男性たちがいた。左側の男性は、どうやらEU残留派で、右側の離脱派の男性をなぜ離脱がダメなのかを説得しているようだった。

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残留派(左)が離脱派(右)を説得(撮影筆者)

「・・・だから、よく考えてみてくれ、と言いたいんだよ」と左側の男性。「もちろん、十分考えたよ」と右側の男性。

「いいかい、離脱か残留か、その結果は私たちだけの話じゃないんだよ。私たちの子供やその子供にも、ずっと影響が及ぶことなんだ。英国がEUから出るなんて。第2次大戦で父は戦った。欧州の平和のためだ。なのに、欧州の統合から英国がこんな形で抜けるなんて・・・」。

右側の男性がいう。「私の父だって、戦争に行ったよ・・・」。

二人の会話をどこかのテレビ局が撮影し出した。

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「写真撮影だけならいいよ」と言ってポーズを取る男性(撮影筆者)

間に入っていた男性はカラフルな装いをしていた。「なぜ離脱支持なのか、教えてほしい」。男性は、ゼイゼイした声で「悪いけど、声が出ない。疲れた。朝8時からここにいるんだ」。写真なら、撮影してもよいと言われカメラを向けると、ポーズを取ってくれた。

その先にいた男性は、英国独立党(UKIP=ユーキップ)のプラカードを持っていた。「UKIPの人ですか?」と聞いてみた。

「違うよ」と答えた、サイモンさん。「自分はこういうデモに、今まで来たことは一度もない。国民投票では離脱に票を入れたけどね。何も持ってこなかったから、このプラカードを借りただけだ」。

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サイモンさん(筆者撮影)

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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