コラム

乾坤一擲の勝負に出た岸田首相、安倍派パージの見えない着地点

2023年12月19日(火)17時42分

検察捜査の「終着点」は

他方で首相は特捜部による捜査の進捗を横目でにらんで時間を稼ぐような姿勢も見せており、それが国民の深刻な政治不信に追い打ちをかけている。時事通信の12月の世論調査によると、内閣支持率は前月比4・2㌽下落の17・1%、自民党支持率は18・3%にまで落ち込んだ。

今後どうなるか。焦点になるのは特捜部による強制捜査の範囲だ。

政治資金収支報告書の不記載・虚偽記載罪の対象は一義的には派閥の会計責任者であり、政治家は共謀があった場合にのみ罰せられる。しかも形式犯だ。政治資金規正法は「政治資金が国民の浄財であることにかんがみて、収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民に委ねる」ことを理念としている。形式犯の摘発が国政に与える影響は慎重に考慮される。

宮沢博行防衛副大臣が暴露した「派閥による不記載の指示」があったなら、不記載の故意犯が成立する可能性は高まる。だが、具体的な指示を出したのは誰か、派閥事務総長クラスの政治家がどう関与したのかという詳細はいまだに不明だ。会計責任者の立件にとどめるという判断がされた場合、強制捜査の範囲は派閥事務所で終わるだろう。

しかし、国民の間にこれだけの政治不信を惹起(じゃっき)している案件だ。仮に検察が政治家を不起訴あるいは略式起訴で処理した場合、その怒りの矛先は検察自体に向かいかねない。不起訴の先には検察審査会が控えている。

最高裁は22年5月、タイでの外国公務員に対する贈賄の報告を受け「仕方ないな」と黙認した大企業取締役に共謀共同正犯の成立を認める判決を下している。企業犯罪と政界汚職は同じではないが、組織責任者の関与を厳しく問う最高裁判決が登場しているのだ。新しい司法判断の流れに沿った捜査・訴追が行われた場合、政治家が立件される可能性は否定できない。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story