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敗者・河野、勝者・岸田と自民党(と元老たち)の総裁選
昔も今も「平家・海軍・国際派」は必敗
敵基地先制攻撃能力の保有から対中非難国会決議の実現までの保守的政策を正面から掲げる高市氏もいれば、女性、こども、社会的弱者に寄り添う視線を強調する野田氏もいた今回の総裁選は、右から左まで幅広いウイングを持つ自民党の国民政党性をいかんなく示した。55年体制の下で「擬似的政権交代」の役割を果たしたと評される党総裁選がまるで再来したようだ。
こうした客観的情勢が、若手議員を中心とする選挙への不安を和らげ、「選挙で勝てる顔」という基準を最優先にして新総裁を選ばなければならないという逼迫感を減少させた。河野氏は非常事態宣言下でのワクチン接種の進展を自らの実績として強調したが、その理解が浸透したとは言い難い。コロナ禍における総選挙直前の総裁選という「有事性」がいわば希釈化されたことによって、「小異を捨てて大同につく」必然性が薄れ、小異が目に留まるようになったのだ。原発、再生可能エネルギー、対中姿勢、女系天皇、同性婚といった個別的論点における姿勢の違いに目が向くようになり、結果として最も不利を被ったのが河野氏、有利になったのが岸田氏となったと言えよう。
もう一つのポイントは、「舞台」回しの妙だ。
決定的な動きは、保守的な政策を前面に掲げる高市氏が急速に支持を拡大したことだった。これによって、従来からの保守的な自民支持層が喝采をあげただけでなく、「女系天皇」や「同性婚」、「原発」などに関する河野氏の「リベラルなイメージ」が際立つ形になった。両者の狭間で中庸と安定のイメージを維持し続けるポジショニングを得たのが岸田氏だった。
河野氏は9月10日の出馬表明で「日本の礎は皇室と日本語である」と延べたが、党内イメージは保守派というよりも徹底した改革派、合理主義者。河野氏が在京外交団をはじめとして米国や欧州諸国で人気が高いのは、その英語の明晰性とともに、グローバルなロジックで議論が出来るからだ。しかし、永田町のムラ社会の中では、歯に衣を着せぬ発言はシコリを残す。昔も今も「平家・海軍・国際派」は必敗、なのかもしれない。
いずれにせよ、総裁選での論戦において候補者の主張が「総花的」で「折衷的」になるのは避けがたい傾向であるとはいえ、河野氏は直言居士で名を馳せていただけに、原発や再生可能エネルギー等を巡る主張は「日和見」とも受けとられ、ダメージが大きくなった。それに対して高市氏は首尾一貫して保守的政策を訴え続け、女性宰相候補の筆頭に躍り出た。そして安定性を誇り、敵の少ない岸田氏が総裁の座を掴むことになった。この舞台回しの妙は滅多に見られるものではなかろう。
おそらく今回の総裁選は自民党の重鎮政治家が「元老化」した象徴的出来事として記憶されることになるかもしれない。明治から昭和初期にかけて日本政治の裏座敷に君臨した元老は9人いるが、そのうち長州藩出身は伊藤博文・井上馨・山県有朋・桂太郎の4名。それぞれ近代日本政治史の中で功罪が指摘されている。岸田新総裁は8月26日の出馬表明会見で「党役員は1期1年、連続3期までとすることで権力の集中と惰性を防ぎたい」と言い切り、実質的に政局の口火を切った。果たしてその初心を貫徹できるか。そして、宏池会出身の宰相としては宮澤喜一以来となる「ハト派」の本領を発揮できるか。
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