コラム

上手く演奏するか、「ガス室送り」か...文字通り「音楽に命を懸けた」アウシュビッツの女性オーケストラ

2025年03月28日(金)17時09分

50381という番号の入れ墨を入れられた37歳のアルマは囚人服を着せられ、不妊化の実験室に連れて行かれた。手術台の上で死ぬと思ったアルマは最後の願いに良いバイオリンを求め、看守たちの前で演奏した。さらに数夜演奏した。演奏会はキャバレーのショーに早変わりした。

アルマの家族は改宗し母はカトリック、父はプロテスタント。アルマも洗礼を受け、ユダヤ教徒ではなかったが、ナチスにはユダヤ人だった。最も貴重な持ち物を持ち出すよう言われたユダヤ人の多くが素晴らしい楽器をアウシュビッツに持ち込んだ。それがアルマの命綱になった。

オーケストラに加えることは命を救うことに直結

サディスティックで残忍な女性看守は男性オーケストラに負けない女性オーケストラをつくることで名声を得ようとしていた。アルマが指揮者を引き継いだ女性オーケストラは朝と夕に収容者が整列して収容所と作業現場を往復するためのマーチングバンドとして活動を始めた。

アルマの女性オーケストラはSSに気に入られた。なぜなら演奏によってアウシュビッツは単なる絶滅収容所ではなく、より軍事的な規律漂う収容所を装うことができたからだ。名声が広がると、アルマはナチス高官や看守のために3時間の日曜コンサートを担当するようになった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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