コラム

「生活費の危機」のなか、優先された経営者たちの報酬アップ...庶民との格差は79倍→118倍に拡大(英)

2023年08月23日(水)18時10分
英ロンドンのビジネス街

Sergio Rojo/Shutterstock

<英調査によれば大企業100社のCEO報酬は、21年の6億3000万円から22年には7億3000万円に16%増加。労働者の年収615万円の118倍に達した>

[ロンドン発]ロンドン証券取引所に上場する時価総額が大きい100社(FTSE100)の最高経営責任者(CEO)の報酬(中央値)が2021年の338万ポンド(約6億3000万円)から昨年391万ポンド(約7億3000万円)に16%も増加していたことが英独立系超党派シンクタンク「ハイ・ペイ・センター」の調べで分かった。

英国企業トップの報酬はフルタイム労働者の年収3万3000ポンド(約615万円)の118倍。20年の79倍、21年の108倍に比べて格差は拡大し、18年の123倍以来、最高水準に達した(いずれも中央値で比較)。庶民が「生活費の危機」に苦しむ中、裕福な経営陣の報酬アップを優先する仕組みは「100%間違っている」(ハイ・ペイ・センター)という。

平均報酬も444万ポンド(約8億2600万円)と21年の423万ポンド(約7億8700万円)を上回った。FTSE100企業の96%がCEOにボーナスを支給しており、21年の87%より増えた。しかしボーナスの平均支給額では140万7000ポンド(約2億6200万円)と21年の143万1000ポンド(約2億6600万円)を下回った。

CEO報酬のトップ10企業は次の通りだ。
・アストラゼネカ(製薬)1532万ポンド(約28億5100万円)
・BAEシステムズ(航空・防衛)1069万ポンド(約19億9000万円)
・CRH(建設資材メーカー)1038万ポンド(約19億3200万円)
・BP(エネルギー)1003万ポンド(約18億6700万円)
・エクスペリアン(データ・分析ツール)994万ポンド(約18億5000万円)
・シェル(エネルギー)970万ポンド(約18億500万円)
・ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(タバコ製造・販売)962万ポンド(約17億9000万円)
・アングロ・アメリカン(鉱業資源)954万ポンド(約17億7500万円)
・エンデバー・マイニング(金鉱山)899万ポンド(約16億7300万円)
・GSK(製薬)845万ポンド(約15億7300万円)

インフレ、住宅ローン、食品高騰に苦しむ庶民

アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン、エヌビディアといったテクノロジー企業が時価総額トップ5を占める米国と違って、英国は資源、エネルギー、防衛など大英帝国の香りを漂わせる「ダイナソー企業」がズラリと並ぶ。米国市場への上場を目指す企業が相次ぐロンドン証券取引所は「ジュラシック・パーク」とも揶揄される。

アストラゼネカはオックスフォード大学と協力して新型コロナウイルスに対するワクチンを製造した。しかし、このワクチン接種で血栓のできる割合は40代で10万分の1だが、30代では6万分の1に増える。このため今年に入ってワクチン誘発性の血小板減少症を伴う血栓症と診断された75人の患者や家族がアストラゼネカに対し訴訟を起こしている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中南米からの一部輸入品で関税撤廃 コーヒーなど

ワールド

米上院民主党、対中輸出規制を一時停止したトランプ政

ワールド

ブラジル、25年のGDP成長率予測を2.2%に下方

ワールド

スイス、米と関税引き下げで近く合意か 協議「良好」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story