コラム

なぜマクドナルドはウクライナ人の心を鷲掴みにする? 営業再開店には、空襲警報が鳴り響く日にも長蛇の列

2023年06月02日(金)17時28分

グローバル化の時代は完全に幕を閉じた

ウクライナ戦争でポスト冷戦による「平和の配当」と権威主義国家の中国やロシアを巻き込んだグローバル化の時代が完全に幕を閉じたのは間違いない。グローバル化は勝者だけでなく敗者を大量に生み出してしまった。中国は最大の勝者になった反面、ロシアやウクライナ、米国や英国の工場労働者は惨めな敗者になった。

膨大な貿易赤字に苦しむ米国でトランプ現象が起き、英国が欧州連合(EU)から離脱したのはその現れだ。今回の戦争の背景には、埋めきれないほど開いてしまった貧富の格差が横たわる。フリードマン氏の「黄金のM型アーチ理論」は死んだのか。経済関係の促進が平和をもたらすという理論はフリードマン氏のはるか以前から唱えられている。

敗戦後、日本は米国の自由と民主主義を受け入れることで高度経済成長を遂げ、両国は固い絆で結ばれた同盟国になった。欧州は戦争の火種になってきた石炭と鉄鋼の共同市場をつくり、EUという平和と繁栄の礎を築き上げた。しかし今回、戦争を回避するには経済だけでなく政治的・社会的な統合が不可欠なことを浮き彫りにした。

230602kmr_uam04.jpg

ロシア軍の攻撃を受けたクリヴィー・リフの工業企業ビル(筆者撮影)

マクドナルドは当初、ウクライナでは戦争が終わるまで営業は再開しない方針だった。しかし今や店舗再開は「日常化の象徴」となった。クリヴィー・リフでは5月19日未明、工業企業ビルが攻撃され、64歳の女性と45歳の男性が重軽傷を負った。安全は100%保障されているわけではないものの、「日常化」できるほどの安全は確保されている。

ウクライナの人々にとってマクドナルドは頼もしい米国の象徴だ。しかし、フリードマン氏が唱えたようにマクドナルドが再びウクライナとロシアの「平和の象徴」になる日は戻ってくるのだろうか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UPS機が離陸後墜落、米ケンタッキー州 負傷者の情

ワールド

政策金利は「過度に制約的」、中銀は利下げ迫られる=

ビジネス

10月の米自動車販売は減少、EV補助金打ち切りで=

ワールド

ブリュッセル空港がドローン目撃で閉鎖、週末の空軍基
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story