コラム

なぜマクドナルドはウクライナ人の心を鷲掴みにする? 営業再開店には、空襲警報が鳴り響く日にも長蛇の列

2023年06月02日(金)17時28分

ディマ君(13)とソフィアさん(14)も筆者と一緒に列に並んでいた。翻訳アプリを使っていくつか質問した。ディマ君は「学校は昨日で終わりました。次は9年生です。マクドナルドには1年以上も来られなかったので、今日はハンバーガーとナゲットを食べようと思っています」という。子ども連れの母親、若者グループ、カップルが営業再開を待ち構えた。

そうこうするうちにスタッフの一団がまた戻ってきた。今度こそマクドナルドのハンバーガーが食べられると思ったら、また新たな空襲警報が鳴った。スタッフの一団は再び地下街に逆戻りした。さすがにあきらめて出直すことにした。夕方に訪れた時には営業していたが、さらに行列は長くなっていた。

筆者はダブルチーズバーガーセットを注文した。159フリヴニャ(598円)。日本では同じセットは700円だ。値段はともかく正直言って行きつけのジョージア料理店のハチャプリ風ハンバーガーの方がはるかに美味しくて歯ごたえがある。米国人のロペスさんはさておき、マクドナルドがウクライナ人の心をここまで鷲掴みにする理由は何なのか。

ウクライナ1号店は1997年、キーウにオープン

ウクライナの1号店は1997年5月24日、キーウにオープンした。マクドナルドはウクライナ人にとっては米国資本主義の象徴であり、自由と民主主義、そして旧ソ連からの独立のシンボルでもある。ロシア軍に占領されているクリミア半島や東部ドネツク、ルハンスク両州のマクドナルドは閉店している。

マクドナルドは90年に1号店をモスクワのプーシキン広場にオープンしたロシアから昨年5月、ウクライナ侵攻に抗議して完全撤退し、全850店を閉鎖した。米国のコーヒーチェーン大手スターバックスやファストフード大手「KFC」(ケンタッキー・フライド・チキン)もロシアから撤退している。

冷戦後、急速に進んだグローバル化を象徴するセオリーに米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トーマス・フリードマン氏の「黄金のM型アーチ理論」がある。99年に発表した『レクサスとオリーブの木 グローバル化の正体』の中でフリードマン氏はマクドナルドがフランチャイズを展開する2つの国の間で戦争はなくなったと指摘した。

その国の中産階級がマクドナルド加盟店を経営できるほど豊かになった国民は戦争に関心を持たなくなる。持続的な経済発展と相互依存を実現することが平和のカギになるとフリードマン氏は唱えた。マクドナルドは世界100カ国・地域以上で3万8000店舗を展開する。グローバル化で世界はそれだけ豊かになった証拠でもある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、AI関連株が押し上げ 全般は手掛か

ワールド

韓国GDP、第3四半期は前期比+1.3% 速報値か

ビジネス

円安、家計の購買力低下させる可能性 産業空洞化解消

ビジネス

午後3時のドルは155円半ばでもみ合い、日米金融政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story