コラム

中国が示すウクライナ停戦案に隠された「罠」と、習近平がロシアを庇護する3つの目的

2023年03月21日(火)13時41分

習氏の対露外交3つの目的

「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」には次の12項目が掲げられる。ロシアのウクライナ占領や併合には目をつぶり、戦争の早期終結を求める第三勢力を取り込む内容だ。ウクライナには泣き寝入りを強い、プーチンに兵力を立て直す時間を与える。時間はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ではなくプーチンに有利に働く。

(1)すべての国の主権の尊重
(2)冷戦思考からの脱却
(3)敵対行為の停止
(4)和平交渉の再開
(5)人道的危機の解決
(6)民間人と捕虜の保護
(7)原子力発電所の安全維持
(8)核兵器使用と核戦争の回避。中国は化学・生物兵器の研究・開発・使用に反対
(9)穀物の輸出を促進
(10)一方的な制裁の停止
(11)産業とサプライチェーンの安定維持
(12)紛争後の復興を促進

習氏は露政府発行のロシア新聞に「中露友好・協力・共同発展の新章を切り開くため前進する」と題して寄稿し「ロシアは私が国家主席になって最初に訪問した国だ。この10年で私は8回ロシアを訪問した。中国とロシアは互いに最大の隣人であり、協調の包括的戦略パートナーだ」とプーチンに呼応したが、中露の天然ガス・パイプラインには触れなかった。

米シンクタンク、ブルッキングス研究所のライアン・ハス上級研究員は「中国指導者の対ロシア外交には3つの目的がある。第一はロシアを中国のジュニアパートナーとして長期的に固定化すること。第二にモスクワがウクライナで客観的に負けることがないようにすること、すなわちプーチンが倒れないようにすることだ」と分析する。

「第三の目的はウクライナを台湾から切り離すことである。中国の指導者たちは今日のウクライナは明日の台湾だという見方が広がることに不満を抱いている。ウクライナは主権国家であり、台湾はそうではないこと、両者を比較すべきではないことを世界に認めさせたいのだ」。ウクライナの痛みを和らげるため西側が中国に働きかける余地はあるとハス氏は言う。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米消費者信用リスク、Z世代中心に悪化 学生ローンが

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story