コラム

ロシア侵攻から半年 ついに「大規模反攻」の勝負に出たウクライナの狙い

2022年08月31日(水)18時42分

「プーチンの頭脳」と言われるロシアの極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリヤ氏の爆殺犯は「アゾフ大隊」のウクライナ人女性と断定しながら、ウクライナ独立記念日で侵攻から半年の節目に当たる8月24日、ロシア軍は目立った報復として、ウクライナ南部の鉄道駅にミサイル攻撃(2人の子供を含む25人死亡)を加えることしかできなかった。

「ヘルソンにおけるロシア軍の攻撃能力はさらに低下」

米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は「ウクライナ軍南部作戦司令部によると、10人のロシア人破壊工作・偵察グループが8月27日にヘルソン州で襲撃作戦を試みた。10人の集団は分隊に相当し、機動部隊として効果的に活動するには小さすぎる。これが本当なら、ヘルソン州におけるロシア軍の攻撃能力がさらに低下していることを物語る」と指摘する。

ウクライナ戦争で活動を停止した露独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」のジャーナリストがつくった「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」はウクライナ国防情報部関係者の話として、現在クリミアでは10以上の破壊工作・偵察グループが中央の指揮下で活動していると報じている。戦闘員120〜150人と数人の指揮官やコーディネーターが含まれているという。

同紙は「クリミアへの攻撃が何度行われてもロシアからは何の反応もない。心理的な『レッドライン(ロシアが戦術核を使用すると脅してくるとみなされていた一線)』を見事に越えた」と指摘する。クリミアだけではない。ロシア国内のベルゴロド州、ブリャンスク州、クルスク州、ヤロスラヴリ州ロストフの兵站拠点への攻撃は今年春から続いている。

ウクライナ軍の死傷者は4万人とみられる一方で、ロシア軍の死傷は最大8万人とされる(米国防総省)。ロシア大統領府は8月25日、兵員不足を補うため、ロシア軍の定員を約13万7000人増やし、115万人超にする大統領令を発出し、そのための資金を提供するようロシア政府は指示された。

英国防情報部「現行法ではロシアの兵力は増強できない」

英国防情報部は「より多くの契約志願兵を募集するのか、あるいは徴兵制の年間目標を引き上げるのか、まだ不明だ。いずれにせよ現行法ではウクライナにおけるロシアの戦闘力を実質的に増強できないだろう。契約志願兵はほとんど新規採用されておらず、徴収兵にはロシア国外での兵役義務がないからだ」とツイートしている。

軍事に詳しいシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシダールト・カウシャル研究員は「ロシアには軍隊経験者が約160万人いる。大量失業で兵役に就くことを望む人はさらに増えるだろう。しかし大量の新兵を訓練するのは困難だ。数年に及ぶ長期戦を戦えるかは、ウクライナに残存する正規部隊を温存できるかどうかにかかっている」と分析する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story