コラム

ロシア侵攻から半年 ついに「大規模反攻」の勝負に出たウクライナの狙い

2022年08月31日(水)18時42分

ロシア民間軍事会社「ワグネル・グループ」は17の刑務所で最大1000人の犯罪者を説得し、月給20万ルーブル(約46万円)、死亡した場合の遺族への弔慰金、大統領恩赦で自由を得る見返りにウクライナで戦うことを約束させたと露独立系メディアは伝える。1キロメートル進軍できれば5万ルーブル(約11万5000円)のボーナスを支給するという話すらある。

ヘルソンに送り込まれた露空挺部隊のパヴェル・フィラティエフ氏は自らの手記『ZOV』で、300万ルーブル(約690万円)の負傷手当を受け取った兵士にお目にかかったことがないと打ち明けている。

プーチン氏の血生臭い人生を追跡してきた『キラー・イン・ザ・クレムリン(クレムリンの殺し屋)』の著者で元BBC記者のジョン・スウィーニー氏は筆者にこう語る。

「プーチン氏は1989年、ベルリンの壁が崩壊するのを旧東ドイツのドレスデンで目の当たりにした。あの時と同じように市民の抗議デモがロシア全土で沸き起こるのをプーチン氏は恐れている。徴兵制を全面的に導入できないのも大衆蜂起を恐れているからだ」

ウクライナ侵攻で強くなったルーブル

西側の経済制裁でロシアの外貨準備高5800億ドル(約80兆3300億円)の半分が凍結され、ロシア大手銀行のほとんどが世界の決済システムから切り離された。一時、ロシア通貨ルーブルは暴落したものの、原油・天然ガス価格が高止まりしているため、ルーブルは対米ドルで2月のウクライナ侵攻前より強くなった。

国際通貨基金(IMF)は今年、ロシアの国内総生産(GDP)は6%縮小すると予測する。しかし3月に多くの人が予想した15%減よりはるかに衝撃は小さい。バルト海の海底を通る天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」でロシアと直結するドイツはウクライナ戦争とそれに伴う経済制裁の返り血をまともに浴びる。

ノルドストリーム1は1日最大1億7000万立方メートルのガスを送り出していたが、3000万立方メートル台前半に激減。たまらず、ウォルフガング・クビッキ独連邦議会副議長は「人々が冬に凍えることなく、ドイツ産業が深刻な損害を受けないようブロックされているノルドストリーム2がロシア産天然ガスを送り出すのを認めるべきだ」と発言した。

原発がなく、ロシア産原油・天然ガスの依存度が高いイタリアでは9月25日投開票の総選挙を前に新興の極右ポピュリスト政党「イタリアの同胞」が世論調査で独走している。ウクライナ戦争における対ロシア経済制裁最大の敗者はロシアではなく、欧州だという声もある。長期戦を覚悟するプーチン氏は米欧の結束が乱れるのを待っている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀行、25年純利益は07年以来の高水準 自社

ビジネス

SMBC日興、10─12月期純利益は66%増の34

ワールド

欧州独自軍創設「想像できず」、EU外相も否定的見解

ビジネス

中国、不動産業界締め付け策撤廃と報道 関連銘柄急伸
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story