コラム

「70年にわたる平和維持の実績」 韓国の武器輸出が、ウクライナ戦争で一気に飛躍

2022年07月30日(土)15時30分
K9自走榴弾砲

米軍との合同演習でのK9自走榴弾砲 Choi Dae-woong-REUTERS

<戦車1000両、自走榴弾砲600門、軽戦闘爆撃機48機──文在寅前大統領の「遺産」でポーランドと同国史上最大1兆6000億円超の兵器契約>

[ロンドン発]欧州の防衛市場への参入を目指す韓国がウクライナ戦争で「販売攻勢」を強めている。ロシアの侵攻で、国内総生産(GDP)の5%を国防費に充てることを目標にするポーランドは韓国から自走榴弾砲と戦車の供給を年内に開始することで合意した。トータルで戦車1000両、自走榴弾砲600門、軽戦闘爆撃機48機にのぼる韓国史上最大の兵器契約になる。

今年5月、韓国を訪問したポーランドのマリウシュ・ブワシュチャク副首相兼国防相は「わが国の東部で戦争がある。ポーランド軍には近代的で実績のある装備が必要だ。そのような装備が韓国で生産されている」と述べた。ブワシュチャク氏は韓国の国防、防衛産業関係者らと会談し、自走榴弾砲の供給強化と歩兵戦闘車分野での協力を求めた。

ロシアの侵攻を受け、ウクライナに兵器を供与した北大西洋条約機構(NATO)加盟国では装備の穴埋めを迫られ、国防をさらに強化するため兵器の調達を急ぐ。しかし既存の米欧防衛産業だけでは供給力に限界がある。そこで注目されたのが、事実上の核保有国・北朝鮮と対峙しながらも平和を維持してきた韓国の防衛産業だ。

7月27日、ブワシュチャク氏は韓国の第3.5世代主力戦車「K2」と、韓国が開発した「K9」 155ミリメートル自走榴弾砲、韓国航空宇宙産業(KAI)が米ロッキード・マーティンから技術支援を受け製造した軽戦闘爆撃機「FA-50」の兵器契約を承認した。「私たちには時間がない。待つことはできない」とブワシュチャク氏は力を込めた。

「70年間、平和を維持してきた韓国製装備は最高品質」

「今回の合意ではK2戦車1000両、K9自走榴弾砲600門、FA-50を 48機を発注する予定だ。ロシアがどのようにウクライナを攻撃したかを研究すると、戦場では装甲車と大砲が非常に重要であることが分かる。韓国は70年間、戦争に備えながら平和を維持してきた実績がある。韓国製の装備は最高品質だと保証されている」とポーランド国防省首脳は太鼓判を押す。

目前に迫ったロシアの脅威に備えるため納入ペースが速く、ポーランドの防衛産業を育成するため韓国からの技術移転が多いのが特徴だ。

「K9自走榴弾砲はポーランド製自走榴弾砲『クラブ』と非常によく似た設計だ。『クラブ』生産のためポーランドの工場はすでにフル回転しており、今回の契約に踏み切った。韓国との協力は戦略的アプローチだ」とブワシュチャク氏は語る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story