コラム

「ロシア軍は雪に強いシベリアの部隊を配置した。クリミアの時と同じだ」──ウクライナ兵を訓練した元米兵に聞く

2022年01月31日(月)10時43分

特殊部隊や空挺降下をしてくるかもしれない。最近ではロシアがウクライナ侵攻の口実をつくる「偽旗作戦」を実行するため、ウクライナ東部に工作員を事前配置していることが米当局によって明らかにされた。衛星や通信、インターネットのおかげで、ロシア軍がサプライズを仕掛けるのは難しい。本当に難しい。

――プーチン氏の目的は何だと思いますか

ロペス氏:二つある。一つはプーチン氏の頭の中には旧ソ連時代の栄光がある。共産主義の復活を望んでいるわけではない。権力をほしいままにして影響力を行使できるという栄光を手に入れたいのだ。

もう一つ重要なことはウクライナが旧ソ連の穀倉地帯であったことを忘れてはならない。ウクライナの土壌は豊かでヒマワリの種子の生産量で世界1位、トウモロコシや大麦の生産量も世界6位だ。

プーチン氏はおそらくそのすべてを取り戻したいと思っているはずだ。それは可能だろうか。おそらく不可能だろう。

NATOはこれまでウクライナが加盟するとは言わなかったが、現在、欧州の国が他の国を侵略できないと発言するところまで来た。だからNATOは何か対応するだろう。

――1979年のアフガン侵攻は旧ソ連崩壊の始まりになりました。プーチン氏がウクライナに侵攻すればその二の舞を演じることになるのではないでしょうか

ロペス氏:1992年、モルドバでトランスニストリア戦争が勃発、ロシア軍は平和維持軍を派遣した。2008年にはジョージア(旧グルジア)の南オセチアとアブハジアを巡り、ロシア軍は軍事行動を起こした。

問題はウクライナがそれらの地域のように小さくないということだ。ウクライナは黙ったまま「もっと領土を奪って」とは口が裂けても言わないだろう。そして今回はNATOも関与している。

アメリカはウクライナに侵攻すればロシアの金融機関とのドル取引を停止すると言っており、石油、小麦、生産、輸送管理など国際金融システムへのアクセスができなくなる。プーチン氏が軍事行動を起こせば厳しい制裁を受ける、両刃の剣のようなものだ。

――穀倉地帯を狙うということはウクライナ全土に侵攻するということですか

ロペス氏:その通りだ。クリミアは半島なのでウクライナからクリミアに入る線路は1本しかない。またウクライナは境界を越えてクリミアの浄水場を管理している。そのためロシアはセバストポリ海軍基地を再び手に入れたものの、住民たちは「約束を守っていない」と考えている。

ウクライナ南部にはジャガイモ、ヒマワリ、小麦の穀物地帯が広がる。オデッサとミコライフという二つの要衝もある。旧ソ連の全盛期、戦艦や空母を製造する造船所があった。プーチン氏はソ連が大帝国で、自分はその皇帝だと考えるのが好きなのだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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