コラム

オミクロン株 飲食店の屋内営業を制限しなければ最大7万5千人の死者 英大学が警告

2021年12月12日(日)20時14分

3回目のワクチン接種を受けるため長い行列をつくる若者たち(英セント・トーマス病院で11日、筆者撮影)

<オミクロン株感染最前線の一つイギリスで、感染症の世界的権威が弾き出した恐怖シナリオ>

[ロンドン発]日本ではワクチン展開が効いて1日の新規感染者は1週間平均で110人台にまで落ちている。しかも季節性コロナに度々さらされている日本人は新型コロナにも抵抗力があるから「心配は無用」との声も上がる。しかしオミクロン株の震源地である南アフリカ・ハウテン州の直近4週間分のデータを見るとこの変異株の恐ろしさが分かる。

新規感染者数の増加率はこの4週間、前週比で71%、341%、379%、272%増と伸び、検査陽性率も1.4%、5%、19%、33.9%とハネ上がっている。新規入院患者数は直近の3週間、前週比で120%、166%、125%増と激増しているのだ。全体の平均入院期間は10日から5日に半減したものの、50歳以上の死亡率は依然として高い。

イギリスでも南アと同じようにオミクロン株の感染者が激増しており、一つひとつの症状がデルタ株に比べ軽いとは言っても感染爆発の巨大津波が発生すると医療は完全に崩壊し、経済は致命的な打撃を受ける。それが公衆衛生と感染症研究の世界的権威であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)が日本人には「荒唐無稽」に映る予測を公開した理由である。

感染力が非常に強く、ワクチンによる免疫を回避する新型コロナウイルスの変異株オミクロンに対して英政府が新たに導入したコロナ対策よりさらに厳しい規制がとられなければイングランドだけで2万5千~7万5千人の死者を出す恐れがあることがLSHTMのモデリング予測で分かった(Modelling the potential impact of Omicron in England

オミクロン株の免疫回避率に関する最新の実験データとこれまでの感染状況をもとに来年前半の感染状況を予測した。査読前論文として11日に発表された。英政府が先に発表した在宅勤務やワクチンパスポートなどのプランBを上回る対策が実施されなければ感染の大津波が発生して今年1月の最悪期の約2倍の入院患者が発生する恐れがあるという。

LSHTMの研究チームが示した今月1日から来年4月30日までの4つのシナリオは次の通りだ。
(1)オミクロン株の免疫回避率が低く、3回目ワクチン接種の高いブースター効果が期待できる最楽観シナリオでは、入院患者は17万5千人(13万9千~19万8千人)、死者は2万4700人(1万9500~2万8700人)
(2)免疫回避率が低いものの、ブースター効果も低いシナリオでは入院患者は30万6千人(26万~33万5千人)、死者は4万5400人(3万8600~5万900人)
(3)免疫回避率が高いものの、高いブースター効果が期待できるシナリオでは、入院患者は31万8千人(25万4千~35万9千人)、死者は4万7100人(3万7100~5万2800人)
(4)免疫回避率が高く、ブースター効果が低い最悲観シナリオでは入院患者は49万2千人(41万8千~53万7千人)、死者は7万4800人(6万3500~8万2900人)

kimurasenariochart.jpeg
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)のモデリング予測(査読前論文より)

最楽観シナリオでは飲食店の屋内営業制限で死者は7600人減

一番楽観的な(1)のシナリオでも1日当たりの新規入院患者は2410人(1760~3570人)に達する。しかし来年早々に飲食店の屋内営業の制限、一部娯楽施設の閉鎖、集会規模の制限(正常化に向けたロードマップのステップ2)を実施すれば感染ピークの高さを抑えることができ、入院患者を5万3千人、死者を7600人減らすことができる。

英政府の正常化ロードマップをおさらいしておこう。
■ステップ0(S0)、ロックダウン(外出禁止)
■ステップ1(S1)、6人または2世帯までなら屋外で会うことができる。屋外のテニスコートやバスケットボールコートは営業可能
■ステップ2(S2)、美容院、ネイルサロン、図書館、コミュニティーセンター、動物園、テーマパーク、ドライブインシネマ再開。レストランやパブ、バーの屋外営業可能
■ステップ3(S3)、30人未満の屋外集会。屋外のシネマや劇場を再開。6人または2世帯までなら屋内でも会える。レストランやパブ、バーの屋内営業とホテル再開。屋内イベントは1千人。屋外イベントは4千人。結婚式の参加者は30人まで
■ステップ4(S4)、正常化

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独エンジニアリング生産、来年は小幅回復の予想=業界

ワールド

シンガポール非石油輸出、8月は前年比-11.3% 

ワールド

原油先物は小幅安、堅調さ続く 米FRB会合の詳細に

ビジネス

中国、サービス消費拡大へ新経済対策 文化・医療の促
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story