コラム

脱石炭で前進「気温上昇は摂氏1.8度に」IEA事務局長がCOP26の成果報告 追い詰められる日本

2021年11月05日(金)11時50分
アロック・シャルマCOP26議長

脱石炭を大きく前進させたアロック・シャルマCOP26議長(中央、筆者撮影)

<中露が欠席するなど期待値の低かったCOP26が大きな成果を上げつつある。そんななか、会場の近くでは日本の石炭火力発電に抗議するデモも>

エネルギー需要の70%を石炭に依存するポーランドも「脱石炭」誓う

[英北部スコットランド・グラスゴー発]英グラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で4日、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長が「これまでの各国政府による誓約を積み上げると世界の平均気温上昇を摂氏1.8度に抑えられる。祝福すべき成果だ」と報告すると、本会場の参加者から拍手が沸いた。

中国、アメリカに次ぐ世界第3位の排出国インドが2070年までの「ネットゼロ(温室効果ガス排出量を実質ゼロに抑える)」を約束し、エネルギー需要の70%を石炭に依存するポーランドも49年までの脱石炭を誓った。エネルギー効率の改善に加え、30年までに温室効果ガスのメタン排出量を20年比で30%削減する目標に100カ国・地域以上が合意した。

ビロル事務局長の発言は石炭火力発電からの脱却を加速させる国際的な連盟「脱石炭連盟(PPCA)」のイベントで飛び出した。世界で500万人以上が亡くなったコロナ危機がくすぶる中、世界最大の排出国・中国の習近平国家主席、第4位のロシアのウラジーミル・プーチン大統領が欠席したCOP26の期待値は低かった。しかし大きな成果を上げつつある。

「エネルギー・デー」の4日、5位韓国、7位インドネシア、9位ベトナム、13位ポーランド、19位ウクライナなど、世界の石炭使用量上位20カ国のうち5カ国を含む少なくとも23カ国が石炭火力発電の廃止を新たに約束した。「石炭からクリーンパワーへの移行に関する声明」が発表され、47カ国・5地方政府・26団体が賛同した。

先進国では2030年代、世界全体では40年代を目標に石炭火力から脱却

石炭火力発電が世界の気温上昇の最大の要因だとして、平均気温の上昇を産業革命前に比べ摂氏2度未満、可能なら1.5度に抑えるパリ協定の目標達成に不可欠な二酸化炭素(CO2)排出削減措置(アベイトメント措置)が施されていない石炭火力発電からの移行を加速させ、安価で信頼できる持続可能なエネルギーへのアクセスを確保することを約束した。

野心的な目標を掲げる国々を認識しつつ、主要先進国では30年代、世界全体では40年代を目標にCO2排出削減措置のない石炭火力発電からの移行を実現するため、今後10年間に技術と政策を早急に拡大させる。削減措置のない石炭火力発電について新規計画の許可と新たな建設を止め、政府による海外への直接支援を終わらせるという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中朝の蜜月、「非核化」巡り隙間風 ちらつ

ワールド

焦点:中国、アフリカで経済活動再び活発化 一方的関

ビジネス

バーゼル3、米次第でEUは一部実施遅らせるべき=仏

ビジネス

EU中国関係、欧州経営者の半数以上が悪化予想 デリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 10

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story