コラム

次期米国務長官から「車にはねられ、轢かれた犬」と見捨てられたイギリス

2020年11月26日(木)16時45分

バイデン政権の国務長官に指名されたブリンケン(写真右)はEU重視 Joshua Roberts-REUTERS

[ロンドン発]米大統領選で勝利したジョー・バイデン前副大統領は23日、次期国務長官に選挙で外交政策顧問を務めた腹心のアントニー・ブリンケン元国務副長官(58)を指名すると発表した。バイデン氏は「アメリカは戻ってきた。世界をリードする準備はできている。後退はしない」と宣言した。

発表された外交・国家安全保障チームの6人はブリンケン氏をはじめ経験豊富な現実主義者ぞろい。自由と民主主義、法の支配を掲げて同盟国やパートナーを結集し、公正な土俵の上で中国の専横を封じ込める考えだ。その一方で、新型コロナウイルス・パンデミックや地球温暖化対策で中国との協力を急ぐだろう。

ドナルド・トランプ米大統領と違い、中国との火種になる台湾については「一国二制度」の枠を超えず、「米中冷戦」「デカップリング(分断)」とバラク・オバマ前大統領の「アジア回帰政策」との間に着地点を探るとみられる。台湾だけでなく、日本もオーストラリアもチーム・バイデンがどう出てくるか気が気ではない。

おそらく中東の同盟国イスラエルや欧州の同盟国イギリスもチーム・バイデンの一挙手一投足を注視しているだろう。衝動的で人種差別的な言動でアメリカ国内だけでなく世界中を混乱に陥れたトランプ大統領だが、強力な後押しを得られた台湾、日本、イスラエル、イギリスの政治指導者にとっては有り難い存在だった。

日本の安倍晋三首相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、イギリスのボリス・ジョンソン首相はトランプ大統領とは馬が合った。

バイデン氏もオバマ氏と同じように同盟国の頭越しに中国やイラン、欧州連合(EU)と話し出すのではないかと皆、ヤキモキしている。日本は「自由で開かれた」インド太平洋を早くも「安全と繁栄」に言い換えられ、その意図を読みあぐねている。おそらく心中、最も複雑なのはジョンソン首相だろう。

「トランプの肉体と感情を持つクローン」

ジョンソン首相がツイッターにアップしたバイデン氏あての祝電には「トランプ」「二期目」という文字がにじみ出て、トランプ大統領の再選を想定した祝電の予定稿を急遽、バイデン氏用に差し替えたという疑惑が英政治ブログ「ガイ・フォークス」に指摘された。英政府報道官はあわてて「テクニカルエラー」と弁明した。

バイデン氏はジョンソン首相を「トランプの肉体と感情を持つクローン」と呼んだことがあると報じられ、当選後、電話で話したのも欧州の指導者の中ではエマニュエル・マクロン仏大統領、アンゲラ・メルケル独首相に次いで3人目だった。第二次大戦以来、アメリカと「特別な関係」を維持してきたイギリスだが、EUの後回しにされる気配が濃厚だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story