コラム

新疆ウイグル自治区で行われる大量不妊手術と強制避妊 「バイデン米大統領」は中国の暗部に切り込めるのか

2020年10月20日(火)11時57分

バイデンは副大統領時代、当時中国副主席だった習近平と8回も会っている(写真は2013年12月の訪中時) REUTERS/Lintao Zhang

「ウイグル族のある地域の出生率目標はほとんどゼロ」

[ロンドン発]「新疆ウイグル自治区の2つの行政区では2015年から2018年にかけ人口の自然増は84%も減少した。今年、ウイグル族(イスラム教徒)のある地域では出生率の目標はほとんどゼロに設定されている」――。

米ワシントンに拠点を置く「共産主義の犠牲者祈念財団」のアドリアン・ツェンツ上級研究員が19日、テレビ電話会議システムを通じ英保守党下院議員でつくる「中国研究グループ」の勉強会に参加し、中国の新疆ウイグル自治区やチベット自治区での人権弾圧の実態を訴えた。

kimuraphoto.jpg
アドリアン・ツェンツ上級研究員(スクリーンショットで筆者撮影)

ツェンツ氏が今年6月、発表した報告書『不妊手術、IUD(子宮内避妊用具)、強制避妊――新疆ウイグル自治区における中国共産党のウイグル族出生率抑制キャンペーン』は世界を驚愕させた。もちろん中国共産党は「全くデタラメ」とこの報告書の内容を全面的に否定している。

「一人っ子政策」で人口増を抑制してきた中国共産党は生産年齢人口を確保するため2016年に「二人っ子政策」に転換した。

しかしツェンツ氏の報告書は、新疆ウイグル自治区で不妊手術などによりウイグル族の自然増を抑える一方で、漢民族の自然増と移住を促進する漢民族の"入植政策"の実態をあぶり出している。

ウイグル族と漢民族の異民族間の結婚が奨励され、ウイグル族の文化とアイデンティティーを薄める「中華民族」への同化政策がとられている。政府文書は、出生抑制政策に違反した場合、強制収容所への超法規的収容によって罰することを義務付けていた。

出産可能年齢の既婚女性の最大34%に不妊手術

昨年の文書は、新疆ウイグル自治区の2つの農村部での大量不妊手術計画を明らかにしていた。おそらく2~3人以上の子供を産んだ出産可能年齢の既婚女性をターゲットに不妊手術は行われ、その数は地域の出産可能年齢の既婚女性の14~34%に達したという。

新疆ウイグル自治区南部にある4つの行政区では少なくとも出産可能年齢の女性の80%に不妊手術かIUDを装着する計画が立てられた。18年に中国で女性に装着されたIUD(純増分)の80%が新疆ウイグル自治区(人口は中国全体の1.8%に過ぎない)に集中していた。

こうした結果、新疆ウイグル自治区における漢民族の人口増はウイグル族に比べ8倍も多くなっていたとツェンツ氏は指摘する。

新疆ウイグル自治区の強制収容所は2016年に陳全国という男が同自治区の党委員会書記に任命されてから急速に拡大した。陳氏は2011年、胡錦濤国家主席(当時)にチベット自治区の党委書記に任命され、胡氏と同じようにチベット族の弾圧で頭角を現した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story