コラム

新疆ウイグル自治区で行われる大量不妊手術と強制避妊 「バイデン米大統領」は中国の暗部に切り込めるのか

2020年10月20日(火)11時57分

ツェンツ氏は「チベット自治区と新疆ウイグル自治区の共通項は陳氏が前例のない社会統制の手法と警察国家メカニズムを導入したことだ」と強調する。ウイグル族コミュニティーでは各戸に貧困対策を名目にQRコードを貼り付けた。

スマホをかざすだけでその世帯に暮らす人々の個人情報にアクセスできる。また多くの"簡易"警察署を設けて地域の「グリッド管理」を行い、人工知能(AI)で漢民族とウイグル族を見分ける顔認識システムでウイグル族への監視を強化しているとされる。

「習主席は非常にスマートだ」

中国共産党によるチベット自治区や新疆ウイグル自治区への統制強化はそれだけにとどまらない。中国共産党の貧困対策は社会統制を家族単位にまで拡大するトップダウンスキームで構成される。農村部の余剰労働者の可処分所得を増やす職業訓練と労働移動がその手段だ。

チベット自治区では「怠惰な人を育てるのをやめよ」と宣言し、職業訓練プロセスの「厳格な軍事的管理」によるチベット族の「低い労働規律」の強化と「後ろ向き思考」の改革が進められる。中国語教育や法律教育もカリキュラムに組み込まれる。

今年1~7月だけでチベット自治区の農村部で54万3千人の余剰労働者が訓練された。このうち約5万人がチベット自治区内の他地域に移され、約3100人が中国の他地域に送られた。職業訓練とは名ばかりの洗脳、愛国教育と言って差し支えない。

中国の習近平国家主席は次世代情報技術や新エネルギー車など製造業の高度化を目指す産業政策「中国製造2025」を掲げる。貧困対策を錦の御旗にした職業訓練と労働移動のスキームはサプライチェーン拡充のため中国東部に広げられているとツェンツ氏は言う。

悪名高きドナルド・トランプ米大統領だが、中国の暗部を真っ向から糾弾した数少ない西側指導者の1人だったことだけは確かだ。

一方、バラク・オバマ前大統領時代の副大統領だった民主党大統領候補ジョー・バイデン前副大統領は11年から1年半の間に、当時、副主席だった習氏と8回も会っている。中国の地方の学校でバスケットのシュートに興じ、通訳のみを介した食事は合わせて25時間以上に及んだ。

ツェンツ氏はこんな見方を示す。

「私が懸念するのは、習主席は非常にスマートだということだ。バイデン氏は原則として人権問題に厳しい。しかし習主席は人権問題の争点化を巧みに避け、地球温暖化対策で譲歩してくるかもしれない。バイデン氏もトランプ氏以前の政権と同じ落とし穴にはまる恐れはある」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管

ワールド

アングル:シンガポールの中国人富裕層に変化、「見せ

ワールド

チョルノービリ原発の外部シェルター、ドローン攻撃で

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story