コラム

新型コロナで都市封鎖しないスウェーデンに、感染爆発の警告

2020年04月03日(金)20時56分

kimurapalace.jpg
筆者がいるロンドンではバッキンガム宮殿も閉鎖された    筆者撮影

スウェーデン公衆衛生局も当初の英国と同じくワクチンができるまではゆっくり感染を広げて、抗体を持っている人が壁となって感染を抑制する集団免疫を獲得しようと考えているそうだ。

これに対してノーベル財団会長のカール=ヘンリック・ヘルディン・ウプサラ大学教授をはじめ2000人以上の医師、科学者らがより厳しい措置を講じるよう求める請願書を政府に提出した。集団免疫を獲得するまでに何人の人が犠牲になるか分からないからだ。

人の接触回数を減らせば感染は制御されるものの、経済は深刻な打撃を受ける。感染制御と個人の自由意思に基づく経済は完全なトレード・オフの関係にある。このため国によって採用されるパンデミック対策には大きな違いが出てくる。

(1)中国の国家統制型フル・ロックダウン
中国共産党の威信を守るためなら情報操作や経済的な損失も厭わない。

(2)欧州の段階的ロックダウン
欧州各国とも当初は自己隔離・社会的距離の推奨・イベント禁止・休校措置・都市封鎖を段階的に導入していく方針だったが、新型コロナウイルスの猛威の前に瞬く間に都市封鎖に追い込まれる。

(3)日本やスウェーデンの「大人の対応」
自由民主主義国家の最後の砦として市民に「大人の対応」をお願いして感染をコントロールする。

(4)韓国やドイツのPCR検査のローラー作戦
PCR検査のローラー作戦を実施して見えない感染者をあぶり出し、隔離して感染を封じ込める。PCR検査のキャパシティーのない国には迅速検査キットができるまではとても真似できない。韓国は欧州諸国とは違って個人のプライバシーを犠牲にして感染経路を虱(しらみ)潰しにしている。

BCG効果なのか?

日本の感染者数が少ないのはPCR検査の実施件数が少ないからだが、他の欧米諸国に比べてどうして重症化する人が少ないのか説明がつかない。結核ワクチンのBCG接種によって自然免疫が鍛えられたという説もあるが、臨床研究の結果を待たないとはっきりしたことは言えない。

日本の感染者の大半は無症状か軽症のため、重症化する患者を早期発見して治療できる態勢を構築するのは戦略として間違ってはいない。

ただ「大人の対応」を有効にするためには損失補償が欠かせない。自粛要請を繰り返す東京都の小池百合子知事は4月3日の記者会見で緊急融資の申請が当初見込みの248億円から1200億円に膨れ上がったことを明らかにした。為政者にも「大人の対応」が求められるのは当然だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政府、大規模人員削減加速へ 最高裁の判断受け=関

ビジネス

ECB追加利下げ、ハードル非常に高い=シュナーベル

ビジネス

英BP、第2四半期は原油安の影響受ける見込み 上流

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story