コラム

ブレグジット反対に舵を切った労働党コービンに勝算あり?

2019年12月11日(水)20時10分

労働党の地盤は大きく分けて2つある。産業革命以降、石炭と鉄で栄えたスコットランド、イングランド北部・中部、ウェールズ南部は、強硬な離脱派が多いオールドレイバー(古い労働党)の地盤。そしてサッチャー革命で中流階級が大量に生まれたロンドンなど都市部は、残留派であるニューレイバーの地盤だ。

コービンが残留か離脱か、なかなか煮え切らなかったのも地盤が割れているためだ。国営化政策については、オールドレイバーと理想主義的な若者たちは賛成、EUと関わるビジネスに携わる人が多いニューレイバーは反対という構図になっている。

今回の激戦区であるイングランド中部ボルソーバーは、ロンドンから電車やバスを乗り継いで3時間半~4時間の場所にある。筆者が訪ねたとき、気温は氷点下、落ち葉も家畜も全て霜に包まれていた。

17歳から炭鉱で働き、全国炭鉱労働組合で頭角を現したデニス・スキナー(87)は1970年から半世紀近く下院議員を務める労働党の最長老。ただ初当選時、得票率は78%近かったが、最近は50%を上回るのがやっと。今回は何の実績もない保守党候補に敗れる恐れが膨らむ。

それは「赤い壁」と呼ばれるイングランド北部・中部の労働党地盤が崩壊しているからだ。世論調査ではこの地域も保守党42%、労働党38%と逆転していた。「赤い壁」に強烈な離脱の風が吹き付ける。

残留派の「起死回生策」

「かつてボルソーバーの男は炭鉱に生き、女は繊維や靴下の工場で働いた。だがサッチャー革命で炭鉱は民営化され、閉鎖に追い込まれた。地域への投資はなく、ずっと苦しんできた」と、地元の州議会議員アン・ウェスタンは話す。

ニューレイバーの裏切りにオールドレイバーはずっと不満を募らせてきた。その怒りは欧州レベルで市場を統合したEUに向けられ、その呪縛から逃れるため忌み嫌う保守党に投票するようになった。

スキナーはNHSで人工股関節置換術を受け、自宅から電話で選挙活動を行っているという。「炭鉱が培った連帯、助け合いの精神は根強い。スキナーへの信頼は絶大よ」とウェスタンは不安説を打ち消す。だが保守党陣営から「離脱か、残留か一体どっちなんだ」と追い打ちをかけられる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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