コラム

「京アニは作品でも暴力を使わず誰も傷つけていないのに」理不尽な大量殺人に広がる悲嘆の声

2019年07月19日(金)17時55分

放火事件から一夜明けた京都アニメ―ションの第1スタジオ(2019年7月19日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

[ロンドン発]京都市のアニメ制作会社「京都アニメーション」の火災で33人が死亡、36人が病院に運ばれた放火事件で、英BBC放送が「ファンは悲しみに打ちひしがれている」と報じるなど、世界中のアニメファンから追悼と激励の声が相次いでいる。

1981年創業の京アニは『けいおん!』『涼宮ハルヒの憂鬱』『Free!』『響け!ユーフォニアム』などの人気シリーズを生み、丁寧な「京アニクオリティー」で海外にもファンが多い。

2016年の『映画 聲(こえ)の形』も注目され、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はネットフリックス(Netflix)を通じて世界中に配信された。

BBCは「『京アニ』として親しまれている京都アニメーションの惨事に世界中のファンがショックを受けた」として、「京アニ、強く生きろ。アニメコミュニティー全体が京アニの後ろについている。京アニが落ち込んでいる時は私たちが必ず手をつかんで引き上げる」などの声を紹介した。

「アニメ英国ニュース」の評論家イアン・ウルフ氏はBBCに「京都アニメーションの最大の特徴はアニメーションそのものの質の高さ。非常に視聴者フレンドリーだ」と話す。

「京アニは暴力もセクシャルな題材もほとんど取り上げず、誰も傷つけていない。にもかかわらず、攻撃しようとした人がいたことに衝撃を覚える」という。

ロンドンの大英博物館では『マンガ展』(5月23日~8月26日)が開催中で、手塚治虫、赤塚不二夫、萩尾望都、鳥山明、こうの史代、谷口ジローら50人の作品約70点が展示され、人気を集めている。

日本のマンガやアニメをきっかけに日本語を学ぶ若者も多く、英紙ガーディアンも衛星放送のスカイニューズ・テレビも映像付きで京都アニメーションの火災を報じた。

ツイッター上のハッシュタグ「#KyoAniStrong」「#KyotoAnimation」にも国内外から悲しみと激励の声が次々と寄せられている。

ロンドンからはDanさんが「犠牲になられた33人の冥福をお祈りします。私の心と支援は京アニのすべての方々とともにあります」とツイート。

Salve S.さんも追悼のツイート。
「火災の惨事に遭われた方々の冥福をお祈りします。京都アニメーションの涼宮ハルヒシリーズ、らき すた、けいおん!、フルメタル・パニック!の笑いは私をアニメの虜にしました。大人になってから数年経つのに聲の形には涙しました」

カナダ・トロント在住のXenon・Black Eaglesさんはこうツイート。
「ショックを受けています。京アニは非常にたくさんのショーや映画を作って、私を刺激し続けてくれました。あんなことをする病める人がいたのが残念でなりません。私の心は今回の惨事で苦しんでおられる人々とともにあります」

米オレゴン州ポートランドのDaveさんはツイートで感謝の気持ちを記した。
「京アニ、こんなに僕にインスピレーションを与えてくれてありがとう。京アニの偉大なアニメは僕を何度も奮い起こしてくれました」

フィリピンのGLOCOさんは追悼のツイート。
「火災の犠牲になられた33人の京都アニメーションの皆様に。あなたたちのハードワークが私たちに素晴らしいアニメ体験を味わわせてくれました。あなたたちは永遠に私たちの心の中にいます。どうか安らかに。これが私の今日のフェイスブックのカバーは京アニの作品です」

カナダ・カルガリーのSodapopCosplayさんはこうツイート。
「私はヴァイオレット・エヴァーガーデンのストーリーに恋に落ちました。毎週(ネットフリックスで放映されるのが)待ち遠しかったです。いつもショーの美しさに笑い、涙しました。悲劇に見舞われた方々に私のすべての愛を送ります」

米国のAnime Club After Darkさんは「この悲劇はアニメコミュニティーがいかに寛大になれるかを私たちに見せてくれました」とツイート。

Withscreen.pressを主宰する映画記者の藤井克郎氏はこう話す。

「昨年、映画『リズと青い鳥』が公開されたとき、京アニ所属の山田尚子監督に取材したが、若い女性でも積極的に監督に起用するなど、進取の気風に富んだ社風だと感じた」

「アニメーションとしては繊細な色づかいと思春期の心の揺れを掘り下げたストーリー性で芸術性にも優れ、この悲劇が今後、どういう影響を与えるのか懸念がある。卑劣な事件に負けず、信念に基づいて素晴らしい作品を作り続けてほしい」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド・中国外相がニューデリーで会談、国境和平や貿

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

米ウクライナ首脳会談開始、安全保証巡り協議へとトラ

ワールド

ロシア、ウクライナへのNATO軍派遣を拒否=外務省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story