コラム

スペインに旋風を巻き起こす極右政党VOXは、「ネオナチ」というより「普通の市民」の顔をしている

2019年04月25日(木)12時39分

定員4000人の会場を埋め尽くした極右政党VOXの支持者(筆者撮影)

[スペイン南部セビリア発]「スペインを再び偉大な国に。スペインに栄光あれ」という掛け声とともに、4月28日投開票のスペイン総選挙で極右ポピュリスト政党VOX(ボックス)が旋風を巻き起こしている。

直近の世論調査で支持率は12%を超え、38議席を獲得する見通し。独裁者フランシスコ・フランコの死から44年、極右政党がスペインの国政選挙で複数議席を獲得すれば初の事態となる。

スペイン南部アンダルシア州で昨年12月行われた州議会選でVOXは12議席を獲得した。そのアンダルシアの州都セビリアで24日、VOXの選挙集会が開かれた。

雨の中、家族連れ、若者、女性の支持者は開始2時間前から長い列を作った。定員4000人はすぐ埋まり、入りきれない支持者が雨に濡れながら会場の外でサンティアゴ・アバスカル党首(43)の到着を待つ。

淡い格子模様のカッターシャツを腕まくりしたアバスカル党首が到着すると、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。スペイン国旗と党旗が打ち振られ、アバスカル党首がたくましい腕を挙げて応える。

闘牛の存続にこだわる

女性が絶叫した。スマートフォンのフラッシュが光る。VOXにはメディアによって「極右」のレッテルがはられるが、アバスカル党首は有権者の要望を実現しようとしているだけだと反論する。

VOX人気が急騰した理由は2つある。2017年に住民投票で独立を選択したカタルーニャ州の問題と、北アフリカから流れ込む難民と不法移民だ。難民は昨年、ギリシャやイタリアより多い5万8569人が流入した。

アバスカル党首が壇上で吠えまくった。「カタルーニャ独立問題によってスペインは辱められている」「中道右派の国民党も中道のシウダダノスもアンダルシアから5万2000人の不法移民を追放するという公約を守っていない」

MAS_9367 (720x480).jpg
VOXのサンティアゴ・アバスカル党首(筆者撮影)

スペインの国政は欧州債務危機とカタルーニャ独立問題で断片化が進む。左派は社会労働党と新興のポデモス、右派は国民党と新興のシウダダノス、VOXに分裂した。

13年末に結成されたVOXは、日本の保守派が「捕鯨」にこだわるように、「闘牛」などのスペインの伝統と文化、価値を強調し、フェミニズムや同性婚、多文化主義に異議を唱える。

反イスラムで、「政府は国民の敵だ」と腐敗や官僚政治を攻撃して既存政党への批判票を集めている。

フランコ時代、内戦で敵対した多くのスペイン人が弾圧を怖れて国外に逃れた暗い経験を持つ。このため、スペインでは極右は絶対によみがえらないと言われてきた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エネルギー貯蔵、「ブームサイクル」突入も AI需要

ワールド

英保健相、スターマー首相降ろし否定 英国債・ポンド

ビジネス

ロシア、初の人民元建て国内債を12月発行 企業保有

ビジネス

再送-オリックス、純利益予想を上方修正 再エネの持
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 6
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 7
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 8
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story