コラム

「歴史の悪魔」を蘇らせるのはトランプ米大統領ではなく、世間知らずのマクロン仏大統領かもしれない

2018年11月13日(火)11時20分

第一次大戦終結100周年の記念式典で「悪魔再び」の演説をしたマクロン仏大統領(11月11日、パリ)Ludovic Marin/REUTERS

[ロンドン発]2000万人の兵士や市民が死亡した第一次大戦から100年が経った11月11日、パリの凱旋門で記念式典が行われた。99万人以上が犠牲になった英国でも犠牲者を追悼する真っ赤なポピー(ケシ科)の造花がロンドン塔のお堀を埋め、連夜、一面に送り火が灯された。

悲しい軍葬ラッパの調べを聞きながら「どうか歴史の証人にならなくて済みますように」と祈らずにはいられなかった。2008年の世界金融危機をきっかけにネオリベラリズム(新自由主義)の熱狂は逆噴射し、世界に暗雲が立ち込める。格差と貧困が広げる分断を解消できないと「歴史の悪魔」が蘇るかもしれない。

マクロンの「大演説」

アンゲラ・メルケル独首相の「終わり」が確実に近づく中、第一次大戦の戦勝国フランスのエマニュエル・マクロン大統領は式典で、「米国第一!」のナショナリズムを強調するドナルド・トランプ米大統領を前に「歴史の悪魔が目を覚ましつつある」と大演説をぶった。

「パトリオティズム(自然に溢れ出る愛国心)はナショナリズムの対極にある。ナショナリズムはパトリオティズムに対する裏切りだ」「他者へのいたわりを忘れて自分の利益を第一に唱えることによって、私たちは国家が最も大切にするもの、国家に命を与えるもの、国家を偉大にするもの、本質的なもの、すなわち道徳的な価値を忘れてしまうのだ」

「歴史の悪魔はカオスを引き起こし、死をもたらそうと手ぐすね引いている。歴史は時に不吉な歩みを繰り返す恐れがある」「私たちの先祖が流した夥しい血によって固めたと思っていた平和というレガシー(遺産)を壊してしまう恐れがある」

式典にはトランプ大統領、ウラジーミル・プーチン露大統領、日本の麻生太郎副総理ら各国首脳級70人以上が参加したが、トランプ、プーチン両大統領は首脳による行進には加わらなかった。トランプ大統領は、第一次大戦で犠牲になった兵士に敬意を表したマクロン大統領に感謝したが、9日に彼の欧州軍構想についてこうツイートしている。

「フランスのマクロン大統領は欧州を米国、中国、ロシアから守るため独自の軍を構築する考えをほのめかした。米国に対するひどい侮辱だ。しかし欧州はおそらく、それより先に、米国が多くを補助する北大西洋条約機構(NATO)の負担金をもっと支払うべきだ」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story