コラム

欧州への「イスラム国」帰還兵1,200人 ドローンを使った新型テロも警戒

2018年02月19日(月)13時00分

イホ氏はこう続けた。「外国人兵士の帰還は、過激派ネットワークが手製爆弾や盗んだトラックやバンによる暴走テロ、ナイフを使った攻撃だけでなく、(パリ同時多発テロ型の)洗練された複雑な攻撃を実行する重要なスキルを提供する可能性がある」

「シリアやイラクではISは手製爆弾を大量生産し、武器やドローンのような新しいタイプの武器やテクノロジーにも習熟した。外国人兵士もこうしたスキルを習得している」

国によって異なるIS帰還兵への対応

IS帰還兵への対応は国によってまちまちだ。スンニ派が大半を占めるタジキスタン(旧ソ連諸国)では1,300人がシリアやイラクに渡航し、147人が帰還したと推定されている。同国政府は自発的にシリアやイラクから帰国した111人については恩赦を与えると発表した。

一方、IS帰還兵によってテロのリスクが増えることを警戒するイギリスは厳罰主義だ。英紙タイムズによると、外国人兵士のうち二重国籍を持つ200人についてはイギリス国籍を剥奪し、それ以外のイギリス国籍しか持たない者は起訴、または移動制限、脱過激化プログラムを強制する方針だ。ギャビン・ウィリアムソン国防相は英大衆紙デーリー・メールに「死んだテロリストはイギリスにいかなる害ももたらすことはできない。IS帰還兵の脅威を破壊し、取り除くためにできることは何でもすべきだ」と発言している。

英キングス・カレッジ・ロンドンにある過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)のピーター・ネイマン所長は「今後5年間でISがどうなるか、自信を持って予測できる者はいない。しかしカリフ国の建国を止めるのは不可能に見えた14年当時の陶酔と熱狂は覚めた」と指摘する。

ISの化けの皮が剥がれたことに加え、SNSをフル活用した発信力も激減した。ICSRのチャーリー・ウィンター氏の調査ではISのメディア拠点の4分の3以上が閉鎖され、「誰かがミュートボタンを押したかのような状態だ」という。

ISはフェイスブックやツイッターといった主要SNSではなく、逆探知を怖れてテレグラムのような暗号化メッセージ・アプリを使うようになった。このため、新規サポーターを発掘するプロパガンダを拡散するのが難しくなった。

IS帰還兵が欧州で線香花火のように最後のテロを強行しても、中・長期的にはISは消えてなくなるシナリオも十分に想定される。しかし、ISによってスンニ派の過激思想「ジハーディ・サラフィズム」は世界中にまき散らされた。中東・北アフリカの不安定化がさらに進めば、IS帰還兵が回流し、新たな怪物を生み出す恐れが膨らむ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FOMCが焦点、0.25%利下げ見込みも反対票に注

ワールド

ゼレンスキー氏、米特使らと電話会談 「誠実に協力し

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

ガザ交渉「正念場」、仲介国カタール首相 「停戦まだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story