コラム

欧州への「イスラム国」帰還兵1,200人 ドローンを使った新型テロも警戒

2018年02月19日(月)13時00分

あの「ジハーディ・ジョン」もイギリス人だった SITE Intel Group/Reuters

[ロンドン発]過激派組織IS(「イスラム国」)指導者アブバクル・バグダディがイスラム国家最高権威者による「カリフ国家」建国を宣言してから3年7カ月余。ISはアメリカが主導する掃討作戦によってイラクとシリアの支配地域の98%を失った。4万人いたIS兵士はわずか3,000人にまで減り、生き残るため砂漠の中で息を潜めている。

イスラム教スンニ派の仲間が虐殺されているというプロパガンダと「カリフ国」建国の夢に踊らされ、旧ソ連諸国、中東・北アフリカ、西欧などから約3万人の外国人兵士がシリアやイラクに馳せ参じた。安全保障を専門とする米シンクタンク、ソウファン・センターが昨年10月に発表した報告書によると、少なくとも33カ国の5,600人が母国に帰還した。

新たな主戦場は欧州

いわゆるIS帰還兵はイギリス425人以下、ドイツ300人以下、フランス271人、ベルギー102人以上。欧州連合(EU)全域では1,200人以下と推定されている。シリアやイラクで本物の戦闘を経験し、武器や手製爆弾(IED)の扱いに習熟したプロの兵士が欧州の各都市に舞い戻ってくる。彼らの新たな主戦場が欧州になる危険性は否定できない。

「今後5年、10年で見ると、欧州各国は過激化した犯罪者、戦闘を経験した外国人帰還兵、ISのレガシー(遺産)と直接のつながりを持つ引揚者によって増大するテロの脅威に直面することになる」

ジェーンズ・テロリズム・インサージェンシー・センター(JTIC)のオツォ・イホ上級アナリストは警鐘を鳴らす。欧州では約1,200人のIS帰還兵のほか、欧州の刑務所に服役しているイスラム過激派支持者の多くが来年から2023年にかけて出所し、市民社会に復帰する見通しだという。

14年5月にベルギー・ブリュッセルのユダヤ博物館で4人が死傷する銃撃テロが起きてからというもの、欧州では実に100件以上のテロがジハーディストによって計画され、そのうち41件が成功している。15年11月、137人もの死者を出したパリ同時多発テロの首謀者は戦闘経験のあるIS兵士のモロッコ系ベルギー人、アブデルハミド・アバウド容疑者(当時27歳)だった。

「外国人兵士は、過激派ネットワークの中で強い信頼を得るだろう。外国人兵士の参加とそのリーダーシップにより、資金集めや渡航支援、プロパガンダといったサポート任務から、組織細胞の形成、武器の調達、爆発物を製造する隠れ家や施設の提供、欧州でテロを実行する兵士のリクルートといった作戦任務に移行していく可能性がある」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story