コラム

アメリカの衰退見据え「日英同盟」の再構築を 英首相メイと安倍首相の握手

2017年09月01日(金)15時00分

アメリカや韓国に対して金正恩が抑止力としての核を保有するのを中国やロシアはどう考えているのか。中国やロシアにとって安全保障上の最大の利益は米軍がアジアから撤退することだ。米全土を攻撃できる核兵器を北朝鮮が保有することによって米軍はアジアへの前方展開を増すのか、それとも安全な後方に引っ込むのか。

大統領就任早々、戦略的な環太平洋経済連携協定(TPP)から抜けたトランプのことだから在日米軍や在韓米軍について将来は何の保証もない。しかも仕事を失った白人単純労働者の怒りを無用にあおり、アマゾンをはじめテクノロジー企業と対立するトランプ登場と、不毛なブレグジットで、これまでの予想より早く欧米の衰退と米中逆転が起きることを筆者は強く憂慮する。

米軍をアジアにとどめよ

米軍がアジアから撤退し、日本が中国の核の傘に入ることは考えられない。中国の核の傘に入ることは、自由と民主主義を放棄するのと同じだからだ。日本としては米軍をアジアに引き止めておくことが安全保障上の最重要課題である。アメリカが悪しき孤立主義への回帰をにおわせる中、日本とイギリスは同盟国としてアメリカを支える必要がある。その要になるのが「日英同盟」の復活だ。

日本とイギリスは13年、アメリカ以外では初の化学・生物防護技術の共同研究を開始。14年に、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35の空対空ミサイル(AAM)技術の共同研究、昨年秋には、航空自衛隊が三沢基地で英戦闘機タイフーンとの共同訓練を実施。今年に入って日英ACSA(物品役務相互提供協定)の署名を行い、着実に日英防衛協力を深めている。

メイは31日、海上自衛隊横須賀基地を訪れ、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」に乗艦した。朝日新聞によると、同行した小野寺五典防衛相は戦前の旧日本海軍の巡洋艦「出雲」に触れ、「出雲はイギリスで造って日露戦争で運用した。日露戦争はそのおかげで勝つことができた」とあいさつしたそうだ。当時、日本はイギリスと日英同盟(1902~23年)を結んでいた。

地政学的に中国と離れている欧州にとって安全保障上の脅威はロシアであって、中国ではない。だから北朝鮮の核・ミサイル開発や中国による南シナ海や東シナ海での海洋進出より、中国との経済関係を優先させがちだ。ブレグジットでEUから離脱するイギリスとの絆を強め、21世紀の「日英同盟」に発展させることは日本の死活問題と言えるだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政

ワールド

米特使「ロシアは時間稼ぎせず停戦を」、3国間協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story