コラム

厳戒のクリスマス、ベルリンテロで難民申請者を公開捜査 開放政策ではテロは防げない

2016年12月22日(木)18時00分

 トラック突入テロで犯行声明を出した過激派組織ISにとって最高のシナリオは、難民受け入れを表明したドイツで反難民感情が強まり、ドイツだけでなく欧州連合(EU)加盟国全体で難民支援策が後退、欧州に流入した難民がますます絶望の淵に追い込まれることだ。絶望は過激化の温床となり、大量のテロリスト予備軍を作り出す。

 そして極右勢力が騒ぎ出せば、ホスト国VS難民、西洋VSイスラムの対立はさらに深まる。英国でEU離脱を主導し、反難民・反移民感情をまき散らす英国独立党(UKIP)のファラージ元党首は「ベルリンから恐ろしいニュースが飛び込んできたが、驚きはしない。こうした事件はメルケルのレガシー(政治的遺産)になるだろう」とツイートした。

 EU国民投票の最中に極右思想にとりつかれた男に惨殺されたEU残留派の故ジョー・コックス労働党下院議員の夫ブレンダンさんはツイッターで「ファラージは過激派の犯行を政治家のせいにした。こじつけもいいところだ」と反論した。

 これに対し、ファラージ氏はラジオ番組で「ブレンダン氏は(人種差別・ファシズムと戦う)市民団体『嫌悪ではなく希望を』を支援している。その団体は素晴らしくて平和という仮面をかぶっている。がしかし、実際は暴力と非民主化を追求している」と毒舌を吐いた。

 ベルリンはテロの恐怖に屈することなく、22日、クリスマスマーケットを再開する。テロリストはもとより、反EU・反移民・反難民を声高に唱える極右勢力の攻勢に、「EUの女帝」と呼ばれるメルケル首相はどこまで持ちこたえられるのだろう。

 ナチスのユダヤ人虐殺、ゲシュタポ(秘密国家警察)の生々しい記憶が残るドイツにとって、反移民・反難民はユダヤ人排斥の引き金になった歴史的な事件「水晶の夜」を思い起こさせる。また共産主義体制下の旧東ドイツ・シュタージ(秘密警察)の反省から治安・情報当局の権限は厳しい制約を受け、オープンであることや個人情報などのプライバシーが最大限に重視されている。

 国境を開いたまま、手足を縛られた治安・情報当局がテロを防ぐのは実際のところ非常に難しい。ロンドンでは観光名所・バッキンガム宮殿で衛兵交代が行われる際、道路が閉鎖され、非常事態宣言下のパリは7500人の厳戒態勢が敷かれた。モスクワではフェスティバルで人が頻繁に集まる公共スペースは突入テロを防止できるようトラックを駐車しバリケードを築くという。オランダ総選挙、フランス大統領選、ドイツ総選挙と選挙が続く新年の欧州は一波乱も二波乱もありそうだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルのノンキャッシュ損失計上

ワールド

上半期の訪タイ観光客、前年比4.6%減少 中銀が通

ワールド

韓国の尹前大統領、特別検察官の聴取に応じず

ビジネス

消費者態度指数、6月は+1.7ポイント 基調判断を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story