コラム

韓国で1日あたりの新規感染者数が60万人を超えた理由

2022年03月29日(火)15時29分

・2022年1月28日:2月4日から入国者に対する防疫体制を一部変更すると発表 :
海外からの入国者に対する隔離措置期間を10日間から7日間に短縮、南アフリカ共和国など11カ国の防疫強化国の指定を解除。

・2022年2月28日:「防疫パス(ワクチン接種証明)」の運用を一時中断 : 飲食店やカフェなど不特定多数が利用する11種の施設を利用する際に提示が義務付けられている「防疫パス(ワクチン接種証明)」の運用を3月1日から一時中断すると発表。

・2022年3月4日:新型コロナウイルス対策の社会的距離確保の追加緩和措置を発表:遊興施設や食堂・カフェ、カラオケ、映画館・公演場などの営業時間を従前の午後10時までから午後11時まで1時間延長。3月5日から3月20日まで適用。

・2022年3月11日:海外からの入国者のうちワクチン接種完了者に対する隔離免除を3月21日から実施すると発表:隔離免除の対象者は、WHO緊急承認ワクチンの予防接種完了基準によって、(1)2回目のワクチン(ヤンセンは1回)を接種後してから14日を経過し、180日以内の人、(2)3回目のワクチン接種を完了した人。 4月1日以降は海外で接種し、接種履歴を国内で登録していない人も対象。また、4月1日から全ての海外からの入国者は、移動する際に公共交通機関が利用可能。

・2022年3月18日:私的な集まりの人数制限を緩和すると発表:6人までに制限していた私的な集まりを、3月21日からは最大8人に緩和すると発表。
 
3番目の原因としては、3月9日に行われた第20代大統領選挙の前に人が集まる機会が増えたことが挙げられる。韓国では2月15日から3月8日までの22日間選挙運動が行われ、国中で「密」な状態の集会が連日行われた。実際、2月15日に5万人前後であった1日あたりの新規感染者数は2月16日には9万人、2月18日は10万人を超えて増え続け、大統領選挙が行われた3月9日には342,430人で過去最高を更新した。

最後に4番目の原因として挙げられるのが「気の緩み」だ。韓国政府がオミクロン株による感染は比較的に重症化率や致死率が低いと発表したうえで、防疫対策の緩和を進めた影響等により、人々の間で「気の緩み」が広がった。さらに、感染者の急増により韓国政府が誇っていた「K防疫」の隔離措置が機能できなくなった。2月15日には新型コロナウイルスに感染した70代の男性が在宅治療中にチムジルバン(サウナ)で倒れ、その後死亡する事件も起きた。

上述した内容が最近韓国で新規感染者数が急増している主な要因だと考えられる。韓国の文化体育観光部は2021年12月にパンフレット『大韓民国 危機を越えて先進国へ』を発行し、「K防疫」の成果を誇った。しかし、その後感染が拡大し、3月末時点で国民の2割以上が新型コロナウイルスに感染したことにより、「K防疫」の成果を語ることは意味がなくなってしまった。大統領の任期まで残り1カ月となった文在寅大統領に「K防疫」の復活や新しい防疫対策を期待することは難しいだろう。5月に誕生する新政権が、今後どのような方法で新型コロナウイルス対策を推進していくのか今後の動向に注目したい。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story