コラム

韓国最大野党「国民の力」に36歳の若大将が選ばれた背景は?

2021年06月22日(火)17時02分

特に、簡潔で明確な意思表明に20代と30代の若者層は好感をもった。相手の主張がなぜ間違っているのかを、理路整然と論じる彼の姿に多くの若者が喝采を送った。既存の政治家が儒教的な思想に基づき、年寄や先輩の政治家を配慮して発言を控えたこととは対照的に、彼は相手の年齢に関係なく言いたいことを言い尽くした。

結果、若者が絶対倒せないと思っていた既得権益層が、彼の前では力なく倒れた。多くの若者は彼が自分たちの意見を代弁してくれたことに満足し、彼こそが若者の立場を代弁できる適任者だと考え始めた。

また、実力を最優先とし、女性の雇用拡大及び差別改善のために実施したクオータ制(積極的雇用改善措置制度)の無理な拡大については反対の立場を明確にしたことも、人気上昇の原因となった。欧米では外国人、女性等に対するクオータ制の縮小を要求する声が出ており、これを支持する人々としない人との間で対立している様相を見せているが、韓国の政治家は今までこれらクオータ制(特に女性)についての具体的言及を控えてきた。むしろ保守政党の政治家の間でもクオータ制を擁護する発言を繰り返してきた。それは、選挙における女性票を意識せざるを得なかったからだ。

追い詰められた男性の支持

しかし、李氏は異なった。クオータ制に異論を差し込み、度を越えたクオータ制の実施に反対の立場を明確にした。このような彼の主張は、積極的雇用改善措置等の実施により立場が弱くなった20代と30代男性の心を動かした。そこで、彼らはYouTubeやFacebook等のSNSに李氏を広報する映像等を毎日のように投稿し、李氏に対する注目度は一気に上昇することとなった。その結果、30代の党代表が誕生することになった。

6月21日に発表された調査結果によると、李氏が率いる野党「国民の力」の支持率は39.7%で前回調査より0.8ポイント高く、与党である「共に民主党」の29.4%を大きく上回った。彼の人気が反映された結果かも知れない。今後、この若大将が最大野党をどのように導き、来年の大統領選挙に向かうのか、これからの動きが注目されるところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強

ワールド

イランとパキスタン、国連安保理にイスラエルに対する

ワールド

ロシア、国防次官を収賄容疑で拘束 ショイグ国防相の

ワールド

インドネシア中銀、予想外の利上げ 通貨支援へ「先を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story