コラム

なぜ韓国の若者は仮想通貨に熱狂するのか?

2021年05月28日(金)15時30分

若者を中心に不満の声が沸き上がると、殷委員長は5月26日に「9月までに申告を終えた仮想通貨事業者(仮想通貨取引所)を通じて取引する投資家の投資資金は自然に保護される」と発言の強度を弱めた。仮想通貨の主な投資家である20代や30代の若者を意識したからである。

実際、2017年末から2018年初にわたる、仮想通貨に対する規制強化は若者の政権離れの一因となり、今年4月7日のソウルと釜山のダブル市長選での与党の敗北の原因にもなった。与党も野党も、政権離れした20代と30代の若者の支持を取り戻さないと、来年の大統領選挙で勝てないことをあまりにもよく知っている。

しかしながら、若者の心を取り戻すことはそれほど簡単ではない。386世代や既存世代とは違い、彼らの多くは安定的な職に就いていない。また、生まれつきの不平等の拡大や、文政権の指導部を中心とした公正の欠如により大きな挫折を経験した。

不動産や株式に投資できる経済的余裕がない若者にとって仮想通貨は「デバック(大儲け)」が実現できる、そして既存世帯との格差を縮める最後のチャンスかも知れない。だから、彼らは仮想通貨に対する政府の規制強化を受け入れようとしない。

従って、韓国政府は仮想通貨に対する規制を強化する対策のみならず、なぜ若者が仮想通貨に熱狂しているのかを十分に把握した上で仮想通貨による被害が拡大しないための対策などを講じる必要がある。また、仮想通貨以外にも世代間の格差が解消できるように多様な機会を提供すべきである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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