コラム

韓国政府の医師増員計画に専門医がストライキ──医師不足と地域格差の解消法は

2020年08月21日(金)11時15分

韓国はOECD加盟国と比べて主要手術等に対する診療報酬が安く、医療サービスに対する消費者のコストパフォーマンスは高い。その代わりに、医療サービスの供給者に戻る利益は少ない。専攻医協議会は医療従事者に対する人件費を政府が支援し、専門医を増やす必要があると求めている。

また、医師数を決めることは予防医学分野であるので現場の声を反映する必要があるのに、予防医学専門家との議論を行わず、政府が独断的に医科大学の定員を増やしたことを強く批判した。

結びにかえて

2000年にあった医薬分葉を巡る医師会のストライキは4カ月も続いたものの、市民団体がストライキの撤回を訴える声明を続々発表し、各種マスコミの投稿欄には医師会のストライキを非難する投稿が絶えなかった結果、医師会はストライキを撤回し、保健福祉部、医師会、薬剤師会で構成される医薬政委員会に参加した。

但し、今回は専攻医を含めた医師会の反発が強く、2000年より事態が悪化する可能性も高い。さらなる問題はいまだ新型コロナウイルスが収束されておらず、感染が続いていることである。このような時代に両者の対立で国民の不安を煽ることは望ましくない。お互いの主張より現在の国民の健康を守ることが何より重要であることを忘れてはならない。そのためにまず両者が「対話」できる環境を構築する必要がある。

韓国と同様な問題を抱えている日本は、韓国より先に医師不足に対する対策を実施している。2006年には「新医師確保総合対策」を発表し、医師不足が深刻な都道府県(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重)について各10人の入学定員を増員した。また、2007年には「緊急医師確保対策」を発表し、全都道府県について原則として各5人の入学定員を増やした。さらに、2010年度から2019年度までも、地域の医師確保等の観点から、「地域枠」、「研究医枠」、「歯学部振替枠」という3つの枠組みで増員を行った。その結果、1982年及び1997年の閣議決定により、7,625人まで抑制していた医学部の入学定員は2019年度には9,420人まで増加することになった。

また、厚生労働省は2015年12月に「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)を設けて、2018年11月までに24回にわたり、分科会を開催しながら医師需給や医師偏在の問題について議論してきた。分科会には、日本医師会の役員や大学の教授、マスコミの記者などがメンバーとして参加している。

韓国政府は、韓国より先に医師不足や医師偏在の問題に対する対策を実施した日本の対策を参考としながら今後の対策を検討する必要がある。特に、医療崩壊や国民の不安を最小化するためにどのような対策を行ったのかに注目することが重要であると考えられる。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ビジネス

タイ中銀、バーツの変動抑制へ「大規模介入」 資本流

ワールド

防衛省、川重を2カ月半指名停止 潜水艦エンジンで検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story