コラム

平壌市民が驚いた「腰の低い大統領」

2018年09月28日(金)11時45分

平壌市民たちは文大統領をというよりは、「金正恩委員長同志」を称えたのだろうと思う。「南の大統領を平壌に呼んで、首脳会談を実現させた我がリーダーは素晴らしい」というのが、一般的な北朝鮮国民の心境だろう。オープンカーでパレードする両首脳を沿道で歓迎した市民も、南北関係進展に喜ぶ気持ちは本心だろうが、動員されてきている人たちだ。

それでも今回の文大統領の一連の行動は、平壌市民らに大きなインパクトを与えたことが想像できる。

民主化された韓国の社会を垣間見て...

金日成総合大学出身の脱北者は韓国のMBCのラジオ番組に出演し、こうコメントしている。

「大統領が(市民にお辞儀して)挨拶をする。これは想像もできないことです」「北朝鮮では大統領は国民が崇めるべき神のような人だと思われています」「文大統領が挨拶する姿に北朝鮮住民は本当に驚いたと思います」「新鮮なイメージを与えるだけでなく、『あんな風に私たちに挨拶する大統領がいるなんて』『どうして?』と考えたと想像できます」

文大統領は韓国でも、庶民的な居酒屋を訪れて客と対話したり、青瓦台を見学しに来た小学生を見かけると、足を止めて記念撮影もいとわないなど、市民にフレンドリーなことで知られている。記念式典などの場でも、歓迎する市民らと握手を交わしたりすることは珍しくない。側近ともほとんど顔を合わせなかった朴槿恵前大統領と対照的な姿は、文大統領の好感度を上げる要因にもなっている。

北朝鮮の市民にとって、そんな文大統領の姿は衝撃的だっただろう。平壌を訪問する首脳のなかで、これほどフレンドリーに、そして至近距離で市民と接した者はいなかったからだ。

92年に当時、韓国の学生だったイム・スギョンが命を懸けて平壌を訪問した際、彼女のTシャツにデニムパンツそして斬新なパーマヘアのスタイルを、平壌の人たちが新鮮に感じたという話がある。

その後、平壌や金剛山など北朝鮮を訪問した韓国の人は多く、現在では韓国人がさほど珍しい存在でもなくなったが、文大統領のフレンドリーな姿は、ファッションや文化に止まらない、現在の民主化された韓国の社会を垣間見ることのできる一片となっただろう。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意

ビジネス

米エヌビディア時価総額、終値ベースで4兆ドル突破

ビジネス

FRBが大手銀行の評定方式改定案、「良好な経営」評
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    昼寝中のはずが...モニターが映し出した赤ちゃんの「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story