コラム

極めて合理的な政策だったアベノミクス──不発だったのは誰のせい?

2020年09月09日(水)12時02分

FRANCK ROBICHONーPOOLーREUTERS

<想定どおりに実施されていれば効果を発揮したはず。なぜ変質したのか、なぜ変節は許されたのか>

安倍晋三首相が辞任を表明したことで、政権の目玉だったアベノミクスも終了となる。アベノミクスには当初、大きな期待が寄せられたが、企業業績の拡大や失業率の低下こそ見られたものの、個人消費が低迷するなど、国民生活という点では成果を上げられなかった。

アベノミクスが失敗した最大の要因は、当初はしっかりしていたはずの政策の中身が流動的になり、一貫性がなくなったことにある。

アベノミクスが提唱された時点では、政策の中身は非常にロジカルだった。根幹を成していたのは、産業構造が時代に合わなくなっており、経済の仕組みを変革しないと持続的な成長は実現できないという日本経済に対する基本認識である。

だが、改革にはある程度の時間が必要となることから、その間の影響を軽減するために財政出動を実施し、長年の不景気でデフレに陥っている現状については、量的緩和策という金融政策で対応するというのが基本戦略といってよいだろう。

ケインズ的な財政政策、量的緩和策に代表される金融政策、産業構造の転換というサプライサイドの経済政策という、経済学の教科書に出てくる主要な3施策を組み合わせることから「3本の矢」とも呼ばれた。

3つとも学術的にある程度、効果が検証されたものであり、適切に実施すれば相応の効果を発揮した可能性が高い。

結果的には量的緩和策だけに

だが首相はいつしか産業構造の転換を口にしなくなり、安易な輸出産業支援やインバウンド需要(インバウンドも形を変えた輸出である)など、昭和の時代を彷彿とさせるような復古主義的な施策ばかりを打ち出すようになった。財政出動を大幅に強化したわけでもなく、結果的にマクロ政策としてのアベノミクスは量的緩和策の一本足打法となった。

日本経済はバブル崩壊以後、一貫して低成長が続いているが、日本の産業構造に原因があることはほぼ明らかである。輸出産業の設備投資で経済を回すのは、かつての日本や一昔前の中国が採用していた成長モデルであり、豊かな成熟国家には当てはまらない。

【関連記事】
・安倍晋三は「顔の見えない日本」の地位を引き上げた
・安倍首相の辞任表明に対する海外の反応は?

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナに最大390億ドル融資 ロシア凍結

ビジネス

ウォラーFRB理事、年内0.25%利下げ想定 必要

ワールド

イスラエル、ベイルート空爆でヒズボラ指揮官を殺害 

ビジネス

AI、短期的にインフレ押し上げ要因に=カナダ中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 2
    NewJeans所属事務所ミン・ヒジン前代表めぐりK-POPファンの対立深まる? 
  • 3
    他人に流されない、言語力、感情の整理...「コミュニケーション能力」を向上させるイチオシ書を一挙紹介
  • 4
    「ゾワッとする瞬間...」大ヘビが小ヘビ2匹を吐き出…
  • 5
    口の中で困惑する姿が...ザトウクジラが「丸呑み」し…
  • 6
    ヒズボラの無線機同時爆発の黒幕とみられるイスラエ…
  • 7
    トランプを再び米大統領にするのは選挙戦を撤退した…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がん…
  • 10
    「テレビから消えた芸人」ウーマン村本がパックンに…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 3
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 4
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 5
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 6
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 7
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 8
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 9
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 10
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 9
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...…
  • 10
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_i…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story