コラム

米朝合意で市場開放が予想される北朝鮮。日本が事を急ぐ必要がない理由

2018年06月13日(水)13時00分

外交的には金正恩の完全勝利 Jonathan Ernst-REUTERS

<経済援助と拉致問題、日本企業の事業進出をパッケージ・ディールするのはまだ早い。過去のアメリカの動きから、日本の出方を見極めると...>

史上初となった米朝首脳会談は、両国が朝鮮半島の「完全な非核化」を盛り込んだ共同声明に署名して終了した。アメリカが大幅に譲歩した形であり、非核化が完全に実施されるのか不透明だが、北朝鮮の市場開放やインフラ整備が進む可能性は高まった。水面下では経済利権をめぐる駆け引きが始まっている可能性が高い。

北朝鮮の市場開放が進む可能性は高まった

ドナルド・トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は6月12日、シンガポールのカペラ・ホテルで首脳会談を行い、朝鮮半島の「完全な非核化」を盛り込んだ共同声明文に署名した。米国が強く求めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」という文言は盛り込まれず、具体的なプロセスについては実務者協議で詰めることになった。

明らかにアメリカの譲歩であり、外交的には北朝鮮の完全勝利だが、少なくとも非核化に向けたプロセスが動き始めるのは間違いない。在韓米軍のプレゼンスは当面維持されるが、これまで事実上の戦争状態だったことを考えれば大きな変化といえる。今後、どこかの段階で経済制裁が解除され、北朝鮮市場の一部が諸外国に開放される可能性は高まったとみてよいだろう。

北朝鮮の人口は約2500万人で韓国の半分程度の規模である。長年の独裁体制と各国による制裁で経済は困窮を極めており、2016年時点における北朝鮮の1人当たりGDP(国内総生産)は韓国の約40分の1しかない(国連推計)。だが、この数字は額面通りに受け取らない方がよいだろう。

細々とした状態ではあるが、北朝鮮には中国との貿易ルートがあり、国内には闇経済が浸透しているといわれる。平壌市内には日本製品も一部流通していることなどを考えると、実際の経済水準はもう少し高いと考えられる。

何より北朝鮮と韓国は同じ民族であり、同一言語を用いている。政治的には多くの困難が伴うだろうが、もともと同じ国だったことを考えれば、経済システムの一部を統合することはそれほど難しいことではない。今後、北朝鮮に対する経済支援が行われ、インフラ整備が進めば、予想以上に速いペースで経済が回復する可能性は十分にある。各国がビジネスチャンスを虎視眈々と狙っているのはこうした理由からだ。

拉致問題と経済支援、日本企業関与をパッケージ化するやり方はアリだが...

では今後、北朝鮮に対する経済制裁が解除された場合、どのような動きになるのだろうか。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロ産原油、割引幅1年ぶり水準 米制裁で印中の購入が

ビジネス

英アストラゼネカ、7─9月期の業績堅調 通期見通し

ワールド

トランプ関税、違憲判断なら一部原告に返還も=米通商

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story