コラム

これが日本の近未来?わずか6畳のアパートに注目が集まる理由

2018年03月20日(火)13時00分

都市部への人口集中はフラクタルのような形状になっている

ここまでスペースを絞った物件ということになると、かなりニッチな市場に思えるが、今後の日本経済の状況を考えた場合、必ずしもそうとは限らない。

このところ東京都の都心3区(千代田区、港区、中央区)への人口流入が急増している。2012年から2017年にかけて千代田区の人口は23.2%、港区は19.6%、中央区は24.4%増加した。これに対して、かつての人気エリアであった世田谷区は6.2%しか増えていない。都心からの距離が遠い足立区や葛飾区は5%台と低迷している。

都心3区ほどではないが、中心部からの距離が近く、その割には家賃が安めに推移している台東区や江東区の人口増加率が高いことを考えると、利便性の高い地域に人口がシフトしていることは明らかだ。

背景にあるのは総人口の減少である。人は経済活動を行って生活しているので、一定以上の人がいないと経済圏を維持することができない。このため総人口が減ってくると、より便利な場所に向かって人が移動することになり、都市部への集約化が進む。

この動きは、「都心」と「その他の地域」という動きにとどまらず、「23区」と「郊外」や「東京」対「地方」、さらに、地方の中でも「地方中核都市」と「その他の地域」といった具合に、一種のフラクタルのような形状になっている可能性が高い。

都市部では十分な土地を確保することが難しく、人が増えるのであれば、スペースを極限まで有効活用する物件へのニーズは高まってくる。今回、狭小アパートのブームは、一過性のものではなく、都市部における住居のあり方の一つを提示していると筆者は考えている。

実際、東京都心部では50㎡強の専有面積で2LDK(つまり子供がいるファミリー世帯向け)の間取りになっている物件もちらほら目にする。こうした物件が増えていることからも、面積にはこだわらず、利便性を最優先する人が増えていることが分かる。

狭いワンルーム・マンションの位置付けも変化する?

もし、この流れがホンモノだとすると、面積の狭いワンルーム・マンションについても再考が必要となるかもしれない。これまで面積の狭いワンルーム・マンションは規制の対象となっており、自治体によって異なるが、例えば、東京都内では25㎡以上でなければ建設できないといったルール(区ごとに異なる)が定められている。

ワンルーム・マンションが林立すると、近隣住民とトラブルになるケースが増加することや、狭い物件の増加で住環境が損なわれることなどから、規制が強化されてきた。

先進諸外国の住環境と比較すると、日本の賃貸住宅はかなり劣悪であることは間違いなく、一般論としては、こうした規制は必要なものといってよいだろう。また不動産投資という立場から見ても、あまりにも狭い物件にはテナントが入居したがらないというのが現実であった。
 
つまり、規制ができる以前に建設されていた面積の狭いワンルーム・マンションは、不良資産予備軍であるというのがこれまでの一般的な見方であった。

だがそれ以上に、人口減少と都市部への集約化という経済の地殻変動が大きいのだとすると、こうした常識についても再考が必要となるかもしれない。少なくとも、過去に建設された面積の狭いワンルーム・マンションについて、再活用できる余地が増える可能性は十分にある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホワイトハウス、女性記者を「子ブタ」と呼んだトラン

ワールド

タイ経済は非常に安定、第4四半期の回復見込む=財務

ワールド

EUと南アが重要鉱物に関する協力協定、多国間主義維

ビジネス

BNPパリバ、中核的自己資本比率目標引き上げ 27
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story