コラム

日本で倒産が激減しているが、決して良いことではない

2016年03月01日(火)14時58分

本来なら市場から退出すべき企業が銀行の減免措置や返済猶予によって延命させられると、新しい産業に人が回ってこず経済に悪影響を及ぼす helenecanada-iStock.


〔ここに注目〕倒産件数と実質GDP成長率の関係

 このところ日本企業の倒産件数が著しく減少している。倒産が少ないことは良いことだと思われがちだが、必ずしもそうではない。本来なら存続が難しいはずの企業が延命するケースが増え、経済の新陳代謝が進まないという弊害もある。実は、これが日本経済の好循環を阻害している可能性があるのだ。

 本来、アベノミクスの成長戦略はこうした非効率な部分を改革するためのものだったが、今のところ一部を除いてほとんど成果は上がっていない。最近、量的緩和策の限界を指摘する声が出ているが、もしかすると、原因はもっと根本的なところにあるのかもしれない。

産業構造が変化するタイミングで倒産は増える

 東京商工リサーチがまとめた年間の企業倒産件数調査によると、2015年における倒産件数は8812件となり、過去24年間で最低の水準となった。バブル経済のピークで倒産件数が異常に少なかった一時期を除くと、1974年以来の低水準ということになる。

 倒産件数が減少している直接的な原因は、2009年に導入された中小企業金融円滑化法の影響である。この法律は、資金繰りの厳しい中小企業から返済条件の変更を求められた場合、銀行は可能な限り、金利の減免や返済期限の見直しに応じなければならないというもの。法律そのものは時限立法となっており、2013年に効力を失っている。だが銀行は、引き続き円滑化法の趣旨に則った対応をしており、これが倒産件数の減少につながっている。

 十分に収益を上げられるはずだった企業が、銀行側の論理で資金繰りに窮することがあってはならないが、現実はその逆が多い。本来なら存続が難しい企業も、銀行の減免措置や返済猶予によって延命しているケースが増えている。

 一般的に企業は不景気になると倒産するというイメージがあり、部分的に見ればその解釈は合っている。図は倒産件数と実質GDP(国内総生産)成長率を組み合わせたものだが、バブル末期には倒産が著しく減少し、バブル崩壊後の90年代後半には倒産件数が増えていることが分かる。だが、景気と倒産にそれほど明確な関係があるというわけではなく、相関係数を取ってもマイナス0.17程度にしかなっていない。景気が良くなると倒産が減り、悪くなると倒産が増えると言い切ることは難しいだろう。

kaya160301-b.jpg

 むしろ着目すべきなのは、バブル経済に向かって景気が拡大していた1980年代半ばに倒産件数が増えていることや、ネットバブルといわれた2000年前後、あるいは米国の不動産バブルで一時的に日本も好景気に湧いた2000年代後半に倒産が増えているという事実である。いずれも、企業のビジネスモデルや産業構造が大きく変化した時期である。このような時にこそ倒産が起こりやすいと考えることもできるのだ。つまり、前向きな意味での新陳代謝である。

【参考記事】日本にもスタートアップの時代がやって来る

 こうした点から考えると、リーマンショック以降、倒産件数が順調に減少してきているのは、経済の新陳代謝が進んでいないことが原因である可能性が高くなってくる。

 では、中小企業金融円滑化法が効力を失ってからも、同じような状況が続いているのはなぜか。それには、銀行が政治問題化を懸念し、躊躇しているという面もあるが、企業自身が前向きな倒産を決断できないという状況も大きく関係している。

【参考記事】マイナス金利で日本経済の何が変わるのか

 当然のことながら、量的緩和策の実施によって一段と進んだ低金利が、企業の金利負担を低下させ、延命効果をもたらしているという面も否定できないだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

バフェット氏、バークシャーCEOを年末に退任 後任

ビジネス

アングル:バフェット後も文化維持できるか、バークシ

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 8
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 9
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story