コラム

安倍元首相の死去後にようやく成就したアベノミクス

2023年07月21日(金)17時00分

アベノミクスの効果は安倍元首相の死後に表れ始めた YUYA SHINO-REUTERS

<現在の税収増は、皮肉なことに安倍政権の退場後に顕著になっている>

われわれの気が付かないところで、何か大きなことが起きている。政府一般会計の税収がどんどん伸びているのだ。

2022年度は約71兆円で、21年度より約6%も伸びている。消費税率が19年10月に8%から10%に上げられた後、税収は3年連続で過去最高を記録している。消費税収だけでなく、法人税収も昨年度は10%、所得税収も5%伸びている。

これは2つの可能性を示唆している。1つは金利を下げ、財政支出を拡大してきたアベノミクスが、ついに日本経済を持ち上げ税収を増やし始めた、財務省の均衡財政論では成長は実現できないことが証明されたのだ、という可能性。もう1つは、財務省の陰謀論。財務省は日銀を使ってインフレを意図的に激化させ、国債の債務を相対的に圧縮することで、国の負債を一気にチャラにしてしまおうとしているのではないか、税収増はその副産物だ、という可能性。

後者は、終戦直後の日本で実際に起きたことだが、今そういうことが進行しているとは思えない。ハイパーインフレになれば「借金チャラ」も可能だが、今の日本で起きる程度のインフレは、金利の高騰と国債利払いの増加を招くだけだ。だから、財務省がそのような状態を望むはずはない。

数字を見てみよう。一般予算の支出決算額を見ると、05年度から12年度にかけて13.4%しか増えていないのに対し、第2次安倍政権下の12年度から20年度にかけては実に52%の増加を示している。

アベノミクスは賃金増を伴わなかったために、消費と投資を増やさなかったのだが、財政拡大と低金利だけでもGDPを増加させた。GDPは12年末の安倍内閣登場までの7年間で6%縮小(08年のリーマン・ショックのため)していたのに対し、安倍政権の間はコロナ流行前の19年までに11.5%伸びている(インフレ率は勘案せず)。

23年を除き成長率は2%以下だったが、それでも就職氷河期といわれていた若年層の雇用を改善した。だからこそ、安倍晋三元首相の葬儀などで多数の青年が長蛇の列を作ったのだ。

海外要因によるプラスのスパイラル

過度の「均衡財政」志向はデフレを生んで、自分で自分を縮小させる。一方、国内の貯蓄の範囲内で国債を発行することは、それが過度にならない限り、経済を拡大均衡の方向に導く。いま起きていることは、このことを証明してくれている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、中国合弁工場で900人削減 EV急拡大で主

ワールド

米下院、詐欺で起訴の共和サントス議員を除名 史上6

ワールド

米連邦地裁、トランプ氏の免責主張認めず 20年大統

ビジネス

米EV税優遇策、中国産材料を制限へ 24年から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 2

    バミューダトライアングルに「興味あったわけじゃない」が、予想外の大発見をしてしまった男の手記

  • 3

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 4

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 5

    世界でもヒット、話題の『アイドル』をYOASOBIが語る

  • 6

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言わ…

  • 7

    ロシア兵に狙われた味方兵士を救った、ウクライナ「…

  • 8

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 9

    「赤ちゃんの首が...」パリス・ヒルトン、息子を「抱…

  • 10

    土星の環が消失?「天体の不思議」土星の素敵な環を…

  • 1

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 2

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 3

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深い意味

  • 4

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 5

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 6

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 7

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 8

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャ…

  • 9

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 10

    1日平均1万3000人? 中国北部で「子供の肺炎」急増の…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 8

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 9

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

  • 10

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story