コラム

中国の時代が去っても、グローバリゼーションは終わらない

2020年02月19日(水)16時15分

世界的な「グローバル鎖国」の時代がやって来るのか? DALIU/ISTOCKPHOTO

<トランプ米大統領が保護主義を採用し世界的な「鎖国」時代に向かうという懸念もあるが......>

トランプ米政権による高関税政策、そして新型コロナウイルス――。グローバリゼーションも、そろそろ年貢の納め時、「グローバル鎖国」の時代がやって来るのか?

いや、そんなことはない。「外に出れば儲かる」――この単純なひとことで、経済はほぼ常にグローバル化へと動くからだ。ローマ帝国、モンゴル帝国、バイキング、倭寇、そして大英帝国。第二次大戦後はアメリカ主導の自由貿易体制、という具合だ。

現在のグローバリゼーションは、1991年のソ連崩壊で「社会主義陣営」の経済体系が消滅し、豊富な低賃金労働力と巨大市場を持つ中国が西側経済の中に組み入れられたことで、その言葉が使われるようになったにすぎない。

その恩恵を最も受けたのは東アジア諸国で、日本、台湾、韓国の企業は中国への直接投資を急拡大させた。中国に部品・製造機械を輸出しては完成品を組み立て、日米欧の市場に輸出して利益を得る国際分業体制をつくり上げた。先進国では産業の空洞化による失業者が不満を強めたが、それが大きく表面化することはなく、分業体制の参加国は全てが益を得る共生システムを構築した。

この流れが一時停止したのが、2008年の世界金融危機の時。輸出が急減した中国は、60兆円分ものカネを市場に放出して経済の勢いを保持した。その後に登場した習近平(シー・チンピン)政権下の中国は、「市場型資本主義の終焉」「中国国家資本主義の時代の到来」という共産党のプロパガンダを信じ込んだのか、アヘン戦争以来の屈辱をすすぐ好機とばかりに世界で覇を唱え始めた。ここで共生体制は崩れた。

アメリカもいつまでも保護主義ではいられない

トランプ米大統領はそこを突き、中国独り勝ちのトレンドを覆す。彼は、中西部の工業地帯で仕事にあぶれた白人労働者(トランプ勝利に貢献した有権者層だ)を引き付けるために、保護主義を採用したのだ。

しかし、トランプ政権もいつまでも閉鎖的な政策を取り続けることはなかろう。アメリカ自身、航空機産業や金融業などでは国外の市場を必要としている。国内産業をある程度復興させれば、今度は米国産品の輸出の自由を声高に主張し始めるはずだ。

そのため、グローバリゼーション見直しのしわ寄せは中国に集中する可能性が高い。中国ではトランプ政権発足以前から賃金の上昇で、企業が工場をベトナムやバングラデシュに移す動きが始まっていた。サムスン電子はスマホ生産の過半をベトナムで行っており、ユニクロの工場の半数は中国以外の国にある。トランプ政権による高関税で、輸出産業は中国からの逃げ足を一層速めている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の輸入半導体関税、発動時期遅れる公算=

ビジネス

米国株式市場=反発、ハイテク株に買い エヌビディア

ビジネス

インタビュー:経営幹部を多国籍に、「唯一の例外で終

ビジネス

NY外為市場=円一時10カ月ぶり安値、片山財務相の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story