コラム

「こわもて」プーチンに下手に出ても日本はナメられるだけ

2019年10月23日(水)17時45分

だがロシアの経済はプーチンの自尊心を支えられまい。筆者がモスクワで乗ったタクシーのタジク人運転手は言っていた。「この頃タジク人はロシアよりアメリカ、韓国に出稼ぎに行きたがる。(通貨ルーブルが下がったので)ロシアでの稼ぎは割が悪い」。プーチンがロシアの「主権」を守ろうとして仕掛けたクリミア併合は制裁となって跳ね返り、折悪しく原油価格まで落ちる。プーチンが何かというと引き合いに出す奇抜な新型兵器も、試験で事故を起こすばかり。制裁で半導体や工作機械の入手が滞れば軍備近代化も宙に浮く。

ロシアへの対応を変えよ

だがロシアはこのように「ズボンが半分ずり落ちている」のに西側向けのこわもてを日本にも向け、「領土問題は解決済み。日本はアメリカに従属する半主権国家だから、話し合ってもらちが明かない」と公言する。最近は日本へのイージス・アショア配備にしきりと文句を言う。おそらくこれを口実に、極東に新型の中距離巡航核ミサイルを配備するつもりなのだろう。

ロシアへの出方を変えるべき時だ。日本は領土問題で、欧州と違って極東の戦後の国境はまだ法的に未画定であることを強調すべきだ。ロシアの新型ミサイル配備にもパニックにならず、自らの巡航ミサイル配備を正当化する理由にすればいい。他方でロシアの国民一般とは共感の基盤をつくっていく。

ロシアには下手に出てもばかにされるだけ。拳を見せつつ握手もする重層的アプローチで臨むべきだ。

<本誌2019年10月29日号掲載>

【参考記事】プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体
【参考記事】リベラルな価値観は時代遅れか――プーチン発言から考える

20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。


プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力

ワールド

トランプ前米大統領、ドル高円安「大惨事だ」 現政権

ビジネス

米ペプシコの第1四半期決算、海外需要堅調で予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story