コラム

「草食性」新入社員に贈る、脱会社型の働き方革命

2018年04月09日(月)10時45分

就職フェアを訪れる学生たち(2012年5月) Toru Hanai-REUTERS

<「一流企業の終身雇用」から個人の資質重視へ――アベノミクスが失速した後の日本経済の処方箋>

このところ、東京の街の交通量やスーパーの客数を見ると、景気は過熱気味のようで、アベノミクスも効いてきたかと思っていた。ところが円高で雲行きが怪しくなってきた。アベノミクスは円安による輸出増で演出した幻なのか。長期持続的に効く薬、つまり日本経済・社会の活性化が手薄だったのだ。

日本は欧米に比べて、社会や企業を引っ張っていく者たち、あえて言えば「エリート」に活力と想像力が欠けている。だからヒト型ロボット「ペッパー」の対話ソフトはフランス製、世界一の囲碁AI「アルファ碁」はアメリカ製、IoT(モノのインターネット)を利用した製造業の本場はドイツになってしまった。

日本は他人が開発したものを磨き上げ、商品化することで戦後の繁栄を築いた。そうしたやり方は今や韓国、台湾、中国に奪われた。日本全体のビジネスモデルを変えないと駄目なのに、毎春まるで幼稚園の入園式のように企業に集まる新入社員たちは、ごく一部の企業の者を除いてやる気を欠いている。彼らにとって会社は自分たちが築いていくものではなく、単に生活を支えてくれるものでしかない。

この日本人の受動性、いわば「草食性」の要因は「一流企業に終身雇用」が理想として相変わらず幅を利かしていることにある。一流企業に就職すれば給料はいいし、社宅は用意されるし、いい結婚相手が見つかる。年金もいいし、いいことずくめ。

企業側も事業を拡張するために多数の新規採用をしなければならなかった。そのためには有名大学の新卒を一気に大量に採用するのが手っ取り早い。

新聖地は「本郷バレー」

こうやって、人生での最も激烈な競争が受験に集中。大学に入ってしまえば4年間遊んで暮らす。そうした人材が企業に入って昇進するから、日本のエリートは他国に比べ見劣りしてしまう。

しかも日本の社員は社内派閥を形成しがちだ。派閥争いは時にビジネスそのものより重視される。その結果、争いに敗れて大企業から外資系に転職しても、仕事より外国人幹部にへつらい、日本人同士で足の引っ張り合いをやっている。つまり「大企業に終身雇用」モデルでは、個人としての能力・スキルは二の次になり、企業や社会の活力を奪うのだ。

こんな日本社会の体たらくを変えるにはいっそ大企業をなくせばいい――という単純な話ではない。既に家電大手は随分身売りした。ネット送金などが普及したこともあり、銀行大手だけでも19年は新卒採用人数を大幅に減らすという。

製造業も新規開発以外の仕事は外部に委託し、頭脳と多額の資金だけを握っていく。一方、部品や機械など生産財を作る部門は大企業化する。サービス分野でも新しい企業が伸びている。

だから変化の激しい時代には、大企業うんぬんよりも、個人の判断能力と稼ぐ能力を高めること。さらには新たな成長分野への転職を促進することで、社会の活力と経済の成長力を高めることが重要なのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、NATOのウクライナ駐留に反発 欧州の安保

ワールド

ガザ南部病院攻撃でハマス構成員6人死亡、米が安保理

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story