コラム

腹立たしくともジョンソンはウクライナで「善戦」

2022年04月20日(水)16時55分

それに、EU加盟国であることを高尚な国際協調の象徴と見なすのも間違いだ。フランスは2006年、最高勲章であるレジオン・ドヌールをプーチンに授与したし、2014年のクリミア併合後もロシアに軍装備品を輸出し続けた。ドイツはロシアの石油と天然ガスの購入によってプーチン政権にカネをつぎ込んで経済モデルを築き上げてしまい、今では経済制裁強化に及び腰だと非難されている。自由社会の旗手たるメルケル前首相の功績は輝きを失った。その一方で、ロシアと蜜月関係にあったシュレーダー元首相が、引退後にロシアのエネルギー大手ロフネフチや天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」運営会社の役員に就任したことが、「天下り」的な腐敗だと糾弾され始めている。

とはいえイギリスも、自身の過ちに向き合わなければならない。イギリス金融業界は、プーチンの取り巻きがロシアから持ち出した資金を洗浄したり投資したりするのを手助けしてきた。また、わが国の難民認定制度はウクライナ難民に迅速に対応できていない。

イギリスのウクライナ政策に関しては、政党の垣根を越えた広い支持が集まっている。その政策とはすなわち、イギリスの過ちを正す、ウクライナに支援を送る、プーチン政権の罪を糾弾する、強力な制裁を課す、そして同盟国と協調して行動する。これは、インフレ率が既に7%に達しているイギリス国内にも経済的痛みをもたらすだろうが、ウクライナが侵攻され戦争犯罪に苦しむなかではそんな「代償」は取るに足らないものだと受け止められている。

この先の介入度合いについては、意見の対立が起こる可能性もある。今のところ西側各国は、より大規模で悲惨な戦争に発展するのを恐れて、ロシア軍と直接対戦する可能性を排除している。だが、ロシアがレッドラインを明言し、核使用の脅しも辞さない一方で、西側は限界線を明確にしていない。もしも化学兵器が使われたらどうする? 戦争兵器としての組織的ジェノサイドやレイプの証拠が明らかになったらどうする? ただ「制裁をさらに強化する」だけなのか?

だが今のところ、ジョンソンは危機を急速に悪化させることもなければ、他国の影に隠れて責任を逃れるようなこともしていない。腹立たしい人物ではあるが、政策は期待に沿っているのだ。

kawatobook20220419-cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス) ニューズウィーク日本版コラムニストの河東哲夫氏が緊急書き下ろし!ロシアを見てきた外交官が、ウクライナ戦争と日本の今後を徹底解説します[4月22日発売]

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国大手銀行、高利回り預金商品を削減 利益率への圧

ワールド

米、非欧州19カ国出身者の全移民申請を一時停止

ワールド

中国の検閲当局、不動産市場の「悲観論」投稿取り締ま

ワールド

豪のSNS年齢制限、ユーチューブも「順守」表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story