コラム

数字から見る英総選挙の結果とイギリスの未来

2019年12月21日(土)16時00分

ジョンソンの保守党政権が今後5年続くのは確実だろう Jessica Taylor/UK Parliament/REUTERS

<政治にうんざりしている割には高い投票率? 女性議員が躍進? 「圧勝」保守党の意外な得票率? 数字を読み解くとさまざまな潮流が浮かび上がる>

12月12日に行われたイギリス総選挙で、明白な意味を示していると僕が考えるいくつかの数字は次のとおりだ。

67.3%

政治についてどう思うかイギリス国民に聞けば、ブレグジット(イギリスのEU離脱)国民投票後の混乱の数年を経て「何もかもにうんざりしている」と、ほとんど誰もが答えるだろう。それでも、3分の2以上の有権者が今回、票を投じた。投票率67.3%は2017年の英総選挙(68.7%)より少し低いけれど、僕は冗談半分で「季節調整数値」なら今回の投票率は70%以上になるだろうと言っている。

イギリスの12月は午後5時までには真夜中のように真っ暗になり、投票日は雨の降る冷たい日だった。在宅勤務やフリーランスの人なら「duvet day(羽毛布団にくるまる日)」と呼ぶような日だ。だから高い投票率は、国民が政治にうんざりしているように見えることが誤りであることをうまい具合に示している。


220人

女性国会議員の数が、これでもまだ下院議員全体の3分の1を少し超えた程度だけれど、それでも過去最高に達した。これは逆風に立ち向かう大きな節目だ。このブレグジットをめぐる数年間で、政治家に対する嫌がらせ行為は飛躍的に増加し(中には暴力による脅迫行為もあった)、特に女性が標的になっている。このため、今回の選挙では大勢の女性議員が立候補を断念する事態を引き起こした。だがその一方で、また別の女性たちが立候補している。

対照的に、「Blair's babes(ブレアのかわいこちゃん)」と呼ばれる女性議員が大量に誕生した1997年の「ブレイクスルー」とされる総選挙では、女性議員の数は全部で120だった。


43.6%

小選挙区制の奇妙な点は、過半数の票すら獲得しなくても「地滑り的」勝利が起こり得るということだ。ボリス・ジョンソン首相が今回安定過半数を得たのはまさにそんな一例だが、興味深いのは、テリーザ・メイ前首相の下で保守党が「惨敗」し、不安定な連立を組む羽目になった2017年の得票率(42.4%)と比較して、ジョンソンがそれを多少上回る程度の得票率しか得ていないことだ。実際、彼はメイよりほんの33万票上回る票を獲得しただけだが、労働党の票が崩壊したために、保守党圧勝につながった。

衝撃的な数字を参考までに。2005年のトニー・ブレアの労働党が単独過半数を獲得した総選挙では、労働党の得票率はたった35.2%だった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story