コラム

悪徳家電販売店、だますほうが悪い? だまされるほうが悪い?

2017年11月10日(金)15時40分

最終的な支払額が膨大になっても今すぐ洗濯機が必要な貧困層は飛びついてしまう(写真はイメージです) Eddie Keogh-REUTERS

<イギリスでは家電製品を高利の長期ローンで貧困層に販売する店舗チェーンが社会問題になっているが、世の中には基本的な金融の知識を持っていない人が意外に多い>

元英労働党党首のエドワード・ミリバンドが最近、低所得者を搾取する店をしっかり規制する法律を作るべきだと呼び掛ける短いテレビ番組を制作し、出演していた。全国展開しているあるチェーン店の名を挙げて(僕の住む町の大通りにも1軒ある)、その店が貧しい人々を「だまして」、家電製品を法外な値段で売りつけていると言っていた。その店は違法なことは何一つしていないのだが、ミリバンドの挙げた例によれば、よそでは350ポンドの洗濯機を1000ポンド超で売っていることもあるという。

週あたりの支払額は小さいものの、何年にもわたる分割払いを設定し、支払総額を分かりにくくする、というやり方でこの店は商品を売っている。番組で紹介された例によれば、販売価格には(オプションではなく標準サービスで)配送と設置費用が含まれ、高額の保険付きで売られている。それに加えて、クレジットで購入すると年率は70%にもなる。

特に高額の保険付きというところに、これではまるで白昼堂々の強盗じゃないかと僕は衝撃を受けた。白物家電製品には大抵、メーカーによる2年程度の無料補償が付いていることが多いし、5年以内に壊れることなどまずない。そんな保険にお金を払うくらいなら、いつか新品に買い替えるときのために貯めておくほうがずっと賢明だ(僕は少なくとも15年は使った洗濯機を買い替えたことがあるが、壊れたからというわけではなく、ピカピカの新品が欲しくなったからだった)。

こういう買い方をするたった1つのメリットは、一度に350ポンド払えない人でも必要な家電製品を今すぐ手に入れられることだろう。本当なら、貯金をして必要な額が貯まるまで待つべきだが、洗濯機(あるいは冷蔵庫やテレビ)なしの生活はあまりに不便だ。少なくとも彼らは、もっと利率の低いローンを組むとか、クレジットカードで買うとかするべきだけれど、彼らはそれができるだけの信用格付けが得られないのかもしれない。

それなら中古品を買うべきだろうが、それも好まない。店側はなるべく多く儲けようとしているが、客のほうはどうしても必要なのだろうし、そのうえ――こんな言い方をしては失礼なのだが――あまり賢くない。「支払いは1週間に7ポンドです」と言われると、「それなら払える」と思ってしまう。

利率も実質収益も無頓着な人々

イギリスでは何年も前から、学校のカリキュラムの一環として金融の基礎を教えるべきだという意見が出ている。だが、今のところはまだ実現していない。人々は、自分の財政状況に深刻な結果をもたらしてしまうかもしれないような非常にまずい経済的選択をたびたびやらかしてしまいがちだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story