コラム

英総選挙で注目の「スター」は

2015年04月27日(月)10時53分

 今のところ、5月に行われるイギリス総選挙の「ストーリー」といえば、スコットランド民族党(SNP)の党首ニコラ・スタージョンの台頭だろう。反EUを掲げるイギリス独立党(UKIP)の支持が昨年は低迷したにもかかわらず、保守党も労働党も自由民主党も、たいして支持を伸ばせていない。

 そんななか、スタージョンはちょっとしたスターになっている。イングランドの左派支持層のなかには、「どうすればスタージョンに投票できる?」と冗談で言う人もいるほどだ(もちろん、SNPはスコットランドの選挙区にしか候補者を立てていない)。

 彼女のスター性は高まっているが、あるコメンテーターがガーディアン紙で指摘したように、「スタージョンは一夜にして成功することに、人生の半分を費やしてしまった」。スタージョンは昨年、スコットランド独立の是非を問う住民投票で主導的な役割を果たした。近年のイギリス史上、最大の政治的イベントの1つに数えられる出来事だ。だが実際のところ彼女には、スコットランド行政府の最大政党SNPの一員として、何年もかけて築いてきた強固な基盤もある。彼女が「突然」有名になったように感じるのは、スコットランド以外の人々だけだろう。

 前回のブログで僕は、SNPはスコットランド分離独立のために存在していると書いた。彼らは独立を目指さないわけにいかない。でも面白いのは、SNPが独立をいつまでも達成せずに引き延ばすつもりだろうという点だ。独立をちらつかせ続ければ、「独立以外に欲しいものは何でも」手に入れられる可能性がある。

■石油収入も確実ではない

 スコットランドは既にイギリスからかなりの権限を委譲されているし、今後も権限移譲は進む。SNPはこんなにも高い支持を獲得したことで、スコットランド問題を効果的に動かす主導権を手に入れるだろう。だがそれ以上に、彼らは総選挙でイギリス議会に多数の議員を送り込もうとしているようだ。彼らは労働党と連立を組む可能性があるが、そうなればイギリス議会やウェールズといった「スコットランド以外の」イギリス政治も大きく揺らぐことになるだろう。

 イギリスはEUにおいて、大きな力を発揮しているとは言い難い。それでも(スコットランドを含む)連合国家としてのイギリスは、少なくともある程度の影響力は持っている。もしもスコットランドが独立して国家になったらどうなるか。ヨーロッパの端の小国の声など、即座にかき消されてしまうだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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