コラム

絶妙のタイミングだった王子の婚約発表

2010年12月08日(水)15時30分

 11月中旬にはいつも、イギリス中にどんよりした雰囲気が漂う。寒さは厳しさを増し始め、木々の葉は落ち、夜はあっという間に暗くなる。クリスマスは「楽しみにする」にはまだあまりに遠い。耐えなければならない冬がこれから少なくとも3カ月は続くのだ。

 だから、ウィリアム王子がこの時期に婚約発表することを決めたのは、おそらく偶然ではないだろう。なんと言っても、僕たちは明るい話題を必要としているのだから。

 イギリス国民の圧倒的多数は、ウィリアムの婚約発表を明るいニュースだと受け止めていると言って差し支えないだろう。ウィリアムは皆に好かれている。イギリス軍に従事しているし、思慮深い若者といった印象だ。彼を守ってやらなければという気持ちにすらなる。確かに途方もなく恵まれた生い立ちではあるが、若くして母親を亡くしているのだから。

 イギリス国民は、まるで自分たちに選択権があるみたいにこう話すことがある――次の国王は、父親のチャールズ皇太子よりもウィリアムの方がいいと。

 そのウィリアムの「中流階級出身の」妻となるのが、ケイト・ミドルトンだ。僕はこの中流階級という言葉が正しいのか、いまひとつ確信が持てない。ほとんどのイギリスの中流階級の人たちから見れば、ミドルトン家はあまりに裕福だ。

 だがそこが、この国の階級の面白いところ。王室や、将来的に王室に嫁ぐような人物を輩出している家々と比べたら、大富豪のミドルトン家も瞬時に中流階級に分類される。

 イギリス国民は、ケイトのことも守ってあげたいと感じている。ウィリアム王子とあれほどおおっぴらに、長年にわたって交際を続けてきたのだ。もしも結婚できなかったらどうなってしまうだろうと、心配でしょうがなかった(王子は王位継承者だから、ケイトと破局したら必ず別の誰かと結婚しなければならなくなる)。

 だから2人の婚約を聞いて国民が抱いた感情は、何よりもまず「安堵」だったように思う。僕自身は、ロイヤルウェディングにあまり盛り上がれる感じでもない。少年時代に見た大きな2つのロイヤルウェディングはよく覚えているが(チャールズ皇太子とダイアナ元妃、チャールズの弟アンドルー王子とセーラ元妃)、どちらも離婚に終わった。

 だが気の滅入る11月にウィリアムとケイトが4月の挙式予定を発表したことは、絶妙のタイミングで、あることを思い出すのに一役買った。冬が終われば、春が来るということだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金正恩氏娘が宮殿初訪問、両親の間に立つ写真 後継ア

ワールド

韓国大統領が4日訪中、両国関係の「新たな章」期待 

ワールド

インド製造業PMI、12月2年ぶり低水準 需要減退

ワールド

シンガポール、25年4.8%成長 AI特需で21年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 8
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 9
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story