コラム

僕の秘密のニューヨーク案内part4

2010年08月23日(月)13時19分

 ちょっとしたディテールや一味違うひねりが随所に見られる建物には、強く惹かれてしまう。ブルックリンで僕は、そんな建物をたくさん見つけてきた。プロスペクトパークのすぐそばにあるのもその1つ。それを見たいがためについつい回り道してしまうような建物だ。

 ブルックリン8番街にあるモントーク・クラブの建物は、1889年に設立された紳士の会員制クラブだった。

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会員にはブルックリン橋完成後の近代ブルックリンの町づくりで中心的役割を果たした多くの重要人物が名を連ねていた。進化するブルックリンの社会的地位に見合う「社交拠点」の場になる----それがこのクラブの構想だった。紳士たちが集い、アイデアを交換し、友人を作る場所だ。

 ドアの上には、この建物の創設を記念する表示が掲げられている。当時まだ「ファッショナブル」とは程遠かった地域にとって、この建物の建設は偉大な功績だった。そしてそれは、その後に訪れる黄金時代の幕開けでもあったのだ。

 建物は古いベネチアの「宮殿風」スタイルで、精巧なアーチ型の窓と見事なバルコニーを持つ。

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だがクラブの名称は、ロングアイランドのアメリカ先住民モントーク族から名付けられた。先住民族の首長たちの顔がドアの上に彫刻され、建物を取り囲む壮麗な鉄のフェンスにもやはり、トレードマークともいえそうな先住民族の顔がついている。

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 さらに印象的なのは、建物正面のフリーズ(天井下の壁の帯状の装飾)だ。そこには白人入植者がアメリカに到着する以前と後の、アメリカ先住民たちの暮らしを物語る彫刻がほどこされている(白人の文明化を美化してもいないし、先住民の文化を理想化もしていない)。

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 建物の中には暖炉やビリヤード台、ダイニングルームなどがあり、そのどれもが同時代のロンドンの会員制クラブで見るようなものと見分けがつかないほどだという。

 イギリス文化やアメリカ先住民の歴史、その後の近代化などさまざまな要素が混ざり合ったこの建物のスタイルや創造性を目にするたび、僕は「いかにもアメリカ的」だと思わずにいられない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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